『剣遊記12』 第四章 サラマンダー、恐怖の襲撃。 (11) 『さぁて、最大最悪の大ピンチってとこやけど、なんか一発大逆転の方法って、あるとかしらねぇ?』
孝治や荒生田たちが必死に逃げているところで、自分だけは傍観者の立場でいられる幽霊の涼子が、さも楽しげな顔をしていた。
彼女は逃げる一行の真上を、同じスピードの浮遊でついてきているのだ。
「あるわけなかでしょ!」
荒生田に抱きかかえられている孝治は涼子に応えられないので、代わりに友美が怒鳴ってくれた。そんな最中でもブオオオオオオオオオッッッと、サラマンダーが大きな雄叫びを上げていた。周辺に火の塊をバラ撒きながらで。しかもなかば宙に浮いた格好で、戦士や魔術師、ついでに幽霊を追い駆けている状態。このトバッチリで、筑後川中流域の河原の草むらがゴウゴウと音を立て、派手に燃え盛る有様となった。
このパニック的状況下、孝治はいまだに真っ裸のまんま、荒生田の両腕に抱きかかえられていた。本人は絶対に否定をしたい心境なのだが、今も『お姫様だっこ』のまんまで。
「せ、先輩っ! どんどんおれん服ば置いとうとこから遠ざかりようとですけどぉ!」
これに荒生田が怒鳴り返した。走りながらで。
「ぶぁっっかもぉーーん! こん緊急事態に、ノンビリ服なんか着ちょう暇なんかなかろうもぉ!」
「服着る暇ば奪ったんは、あんたでしょうがぁ!」
精いっぱいの底力で、孝治は裸のままもがいてやった。しかし現在の荒生田の腕力の中(おまけにスケベ力も加わっている)では、文字どおりに無駄な抵抗そのものだった。
「孝治の安全はこんオレが守っちゃるっちゅうたろうがぁ! ここは黙ってオレに任せんしゃーーい♡」
こんな事態になっても、先ほどとほとんど変わらないセリフをほざく荒生田の三白眼は、このときやっぱりニヤけて♡型となっていた。
孝治はズバリと指摘してやった。
「そげな目ばしちょうけ、先輩はいっちょも信用できんとですよぉーーっ!♨」 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |