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『剣遊記12』

第四章 サラマンダー、恐怖の襲撃。

     (1)

 同じ時刻。荒生田は裕志を連れ、河畔の別の場所にて散歩中――と言っても歓楽街以外にはまったく興味の湧かない好色戦士であるからして、後輩魔術師にどうでも良いような話ばかりを吹っ掛け続けていた。

 

「おい、裕志!」

 

「な、なんですか?」

 

「彼女オラン暦十九年のおまえに訊いたかてしょんなかぁ……とは思うっちゃけどなぁ、おまえ、女ん子がいっちゃん喜ぶようなプレゼントっち……わかるけ?」

 

「へっ?」

 

 彼女オラン暦(つまり彼女イナイ暦)十九年と、荒生田は言った。もちろん裕志には由香という、立派すぎる彼女が存在していることは、旅立ち前に説明をしたとおり。

 

 知らぬは先輩ばかりなり――なのだが、その問題は、この際棚上げ。後輩魔術師は真剣そうな顔になって、先輩からの問いに答えてやった。

 

「……そうっすねぇ……まあ、定番やったら花ば贈るっとか、他に楽しいとこば連れてってあげるっとか、そげなんじゃなかですか♐」

 

 しかし荒生田は裕志の返答に、もろ苦虫(まあ十匹程度)を噛んだような顔になった。

 

「くらっさるるぞ! オレがプレゼントしたか彼女っちゅうのは、オレの鋭い勘ばもってすれば、そんじょそこらのネーちゃんたちとは、すっげえ違うもんなんばい! やきーふつうに考えたかて在り来たりやったら絶対満足せんような人やっち、これもオレの勘でわかるとやけぇ!」

 

 これはまた、ふだんは裕志や孝治たちには見せないような、真面目そのものの剣幕であった。

 

「在り来たり……やないですねぇ……☁」

 

 ここで深いため息を吐きつつも、裕志は先輩の言い方が、なんだかいつもとかなり異なっていることに気づいていた。

 

(確かに先輩かて、今までけっこう女ん子に、花やらペンダントやらあげよったっちゃけどぉ……それが在り来たりっちゅうんやったら、先輩はいったい、なんがしたいっちゅうとやろっか?)

 

 それは通りすがりの娘をナンパするような、いつもの荒生田の手法とは、まったく違う真剣な気持ち――だとでも言うのだろうか。

 

 仮にそうだとしたら、いったい誰にプレゼントがしたいと言うのだろう。その解答がわからないまま、裕志は一応、荒生田相手にポーズだけのうなずきを返してみた。

 

「わ、わかりましたけ★ ぼくも真面目に考えてみますっちゃ☀ これっちけっこう、むずかしいことですけ✍」

 

「ゆおーーっし! 頼むっちゃよ♡ 頼もしき後輩くんよぉ☀☀」

 

 いつもは馬鹿にしてコキ使いまくっているくせに、今回ばかりは後輩である裕志に、荒生田は何度も頭の上げ下げを繰り返した。

 

 そんなサングラス野郎とは、幼少のころからの腐れ縁であった。それほどの関係である裕志が、内心でビックリするほどの、これは異例な事態といえた。

 

「……こげな先輩、初めて見たっちゃあ♋」

 

 まさに信じられない出来事だったのだ。


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