『剣遊記12』 第三章 陰謀渦巻く公爵家。 (23) 「あれぇ? ほんなこつぅ♐」
友美も川のほうへと瞳を向けた。
裸の女戦士――博美はもちろん、あげん図体のデカい象まで見失うなんち、おれたちゃよっぽど話に夢中になっとったんやねぇ――そんな不覚の思いで、孝治は河原から立ち上がった。
「まっ、おれたちが話しちょううちに、先に帰っちまったとやろっかねぇ☺」
しかし孝治はそれほど深刻には考えないで、うしろにある大木に背中全体をもたれかけさせた――が、一瞬小さな疑問が、頭の中を駆け巡った。それからポツリとひと言。
「うわっち? こげなとこに木があったっちゃろっか?」
それから大木(らしいモノ)に、孝治は振り返ろうとした。
そのとたんだった。どう言うわけだか、孝治の頭の上からボタボタボタァッッッと、何個もの泥の塊が落ちてきた。
「うわっち! なんねこれぇ!」
孝治は慌てて、頭に降りかかった泥の塊を、両手で振り払った。
妙に生臭い感じがした。
次に改めて、自分よりも高い大木――と思ったモノを見上げてみた。
それは大木などではなかった。
「やーらふたりぃ、はじかさそうにせんでもどぅまんぎるほど仲いいんだなぁ♡ だからおれがひんぎる(沖縄弁で『逃げる』)みてえに、声かけそびれちまったばぁよ♥」
「うわっち?」
大木だと思ったモノの上から、セリフどおりに博美が声をかけてきた。
余談だけれど今の博美は、バスタオル(オレンジ色)一枚を、体に巻いている格好。さすがに全裸はまずいと思っての用意であろうが、それならば初めっから、真っ裸で川に入るべきではない――とも言えた。
それはとにかく、孝治は一応安心した。消えたと思った博美が、こうしてすぐ瞳の前に現われてくれたものだから。さらにラリーのほうも、一目瞭然に姿を見せていた。
「なんや、博美さんもラリーもいたじゃん☆ しかもラリーはうしろば向いちゃってさぁ♠」
孝治の瞳の前には、お尻をこちら側に向けたラリーがいた。これに友美が、浮遊の術で博美の所まで舞い上がって尋ねた。
「ねえ博美さん、いつん間に陸に上がっとったと?」
バスタオル一枚であろう博美は、快活な口調で友美に答えを返した。
「ああ、ラリーにいっぺークソさせるんで、いったん陸に上がったとこばぁよ★ こいつこれでも、びんないはじかさーするからだわけさー☻ それに飲みわーらーになる川の中でやっちゃあ、でーじなとん迷惑ってもんだからよぉ☀ そしたらやったーらがそこにいるって、わからなかったんばぁよ☠ だからやーの上にやっちゃっただわけさー☠☠」
「うわっち?」
孝治は最初、博美の言葉の意味がつかめなかった。しかし自分の瞳の前に、象の大きな――いや巨大過ぎるお尻があるとすれば――もはや状況は、まさにそのとおり!
「うわっちぃーーっ! やられたっちゃあーーっ!」
孝治は大慌てとなって、今度は自分自身が軽装革鎧も衣服も全部脱ぎ捨て、一挙に真っ裸! そのまま川の中へ、ドッボオオオオオオンンッッと飛び込んだ。
これでは象の飼い主の所業(オールヌードで野外水浴び)を指摘する資格もなし。そんな孝治を見ても当の博美は、まったく反省の素振りなしの態度でいた。
「きゃはははっ♡ ほんと悪りい、悪りい♡ やしが裸で泳ぐって、でーじ気持ちええだろ♪」
また友美と涼子も、もはや笑うしかない昼間の珍事に、お互いため息を吐き合っていた。幽霊もため息が出るようだ。
「ったくぅ、いつも運がなかとやけど、きょうはまた特別運がなかみたいやねぇ☻」
『まあ、運はのうてもウンはあるみたいばい♋ あっ、つまらん親父ギャグば言{ゆ}うてしもうたぁ☠☀』
けっきょく博美、友美、ついでに涼子(孝治と友美しか知らない)の三人で、大いに笑ってばかりの有様だったとさ。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |