『剣遊記T』 第一章 災難は嵐の夜から。 (12) 「お、追うったぁーーい!」
初めはただ呆然と、守備兵たちは女賊が城から飛び降りた様子を眺めていた――だけ。だが、そのうちのひとりがようやく我に返ったようで、今さらながらに間抜け極まる絶叫を張り上げた。
いったいどこまで醜態をさらす気なのだろうか。合馬の言う木偶の棒に、本当になっていた兵たちが、これまた大慌ての繰り返し。集団で階段を、ドタバタと駆け降りた。
すべてが手遅れであるのだが。
こんな有様なので、すっかりシラケ気分の孝治は、城の騒動も終わりだと、勝手に決め込んだ。
「やっと捕り物も終わったみたいっちゃねぇ☻ おれたちゃもう帰るばい☞☞」
これにてお役御免ともなれば、友美といっしょに、城からオサラバするだけ。あとは野となれ山となれ――である。
ところが話は簡単に、幕を下ろしてはくれなかった。
「おらぁ! そこのガキどもぉ! てめえらも追い駆けんかぁ!」
ほっとひと息吐いているところが、恐らく目に入ったのだろう。いきなり合馬が、孝治と友美相手に、とんでもない無茶をわめいてくれた。
「うわっち!」
孝治は初め、足を出して合馬の邪魔をしたことがバレたかと思い、心臓を激しくドキッと鼓動させた。しかし合馬は孝治の暴挙自体には、いまだに気づいていない様子でいた。ここで気づかないぐらいであるから、たぶん一生気づかないままで終わりそうだ。
その合馬が言ってくれた。
「わしゃ関係ねえって他人ヅラすんじゃねえ! おめえらも賊を追えってんだよぉ! おめえらも城のモンだろうがぁ!」
「城のモンって……ま、まあ、全強制的にそうやったんやけどぉ……☠」
とりあえず先ほどの件が、バレていなくて幸い。孝治はもう一度ほっと、安堵の息を吐いた。とはいえ、肩の荷が下りてやれやれ😥の気分でいた孝治には、まさしく出鱈目に等しい言い掛かりでもあった。
「お、おれたちはもう……手紙ば届ける仕事が終わって用無しなんやけどぉ……そもそもこの城とは、無関係な他人なんやしぃ……☂」
「じゃかぁーーしぃーーっ! グダグダほざくんじゃねえ!」
合馬はやはり、一切の理屈と常識が通用しない、典型的なパワハラ上司だった。そんな野郎に今、正面から逆らえば、今度こそ鉄拳ではなく、本当に剣で斬り殺されるかも。
「じょ、冗談やなか!」
観念した孝治は友美の右手をしっかりと握り、急いで守備兵たちのあとを追って、階段をバタバタと駆け下りた。
「災難って、しつこく続くもんやけねぇ〜〜♥」
いっしょに駆け降りながらで友美が、苦笑いの顔をしてささやいた。孝治はこれに、沖縄産ゴーヤを百本、いっぺんに噛み潰すような思いで返してやった。
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