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『剣遊記T』

第一章  災難は嵐の夜から。

     (10)

 パートナーである友美が何回か実演をしてくれた現場を、孝治はずっと前に見せてもらった経験があった。

 

 だが、朽網が放った火炎弾は、友美のモノよりも、直径がずっと大きかった。例えれば友美がミカン大で、朽網はメロン大といったところか。

 

「うわっち! やばっ!」

 

 孝治はすぐに、女賊へ目を向けた。こればっかしはもう、おれには助けられんかも――と思いながらで。

 

ところがその瞬間だった。

 

「うわっち!」

 

 女賊がなんと、自分に向かって飛んでくる火炎弾を、自由が利いている右手で軽く、ポイッと払いのけたのだ。

 

「げっ! わしの火炎弾を弾きやがったぁ!」

 

 孝治も超驚き。だがそれ以上に、朽網には衝撃だったに違いない。それも当然であろう。朽網は明らかに、女賊を舐めてかかっていた。それが簡単に、魔術を一蹴されたわけである。

 

「ちっ! おめえの魔術もてんで屁の役にも立たねえじゃねえか☠ この見かけ倒しがぁ!」

 

 朽網の敗北を目の当たりにして、合馬が望楼の床にペッとツバを吐いた。自分の先ほどの無様は棚に上げて。

 

 ところが言われる一方である朽網のほうも、平然と合馬に応じるだけの余裕と根性を持ち合わせていた。

 

「面目ねえ☻ だけどあの賊、なかなかの野郎だぜ♠」

 

ふたりそろって、かなりの鉄面皮だ。

 

「えーーい! 面倒くせえ! てめえら網を持ってこぉーーい! 盗人に網をかけるんでぇ!」

 

 ふたりの鉄のツラの皮はともかく、合馬が新たな命令を、守備兵たちに怒鳴りつけた。ここは総出で投網を放ち、女賊を雁字がらめにするしか、もはや有効な手段がないようだ。

 

「魔術も通じん相手に、今さら網もなかっち思うっちゃけどねぇ☠」

 

 友美が恒例にしている皮肉を、孝治だけに聞こえるよう、小声でそっとささやいた。

 

「盗人が出たときに、初めっからあれこれ用意しとくもんやけ、手遅れもここに極まれり、ってとこやね☢☻」

 

「そんとおりっちゃね♣」

 

 孝治も友美の言葉にうなずいた。また、守備兵たちも友美の言うとおり、急に持ってこいなどと言われたところで、網の用意などあるはずがなし。しかし命令者は、逆らうことが絶対的に恐ろしい合馬なのだ。

 

「は、はい! 今すぐ持ってきますけん! ちょいお待ちを!」

 

 守備兵たちは大慌てで、下の倉庫まで今から網を取りに行くという、大ボケをかますだけでいた。


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