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『剣遊記番外編U』

第一章  古都の狼藉者。

     (6)

 このとき、吟遊詩人の立ち位置からではまだわからないのだが、道場破りの男は二十代中間ぐらいの、微妙に若い年ごろの戦士であった。

 

 無論戦士であるゆえ、体全体を革で編み、要所要所に金属も仕込んでいる、混成の軽装鎧を着込んでいた。

 

 つまり、それなりの武装ではあった。だがその姿格好を見て、烏賊不破道場側は、殴り込んだ戦士をどうやら舐めたらしい。まずは一番下っ端の新入り弟子から迎え撃ちに立たせていた。

 

 もちろん呆気なく撃沈。それから門下生の格を上げ、次から次へと対戦に向かわせた。

 

 このような調子で、上級の門下生までが道場破りに敗れる破目となり、ついに道場主の登場と相成った。

 

「き、貴様の名はなんやねんな!」

 

 自慢の弟子をことごとく蹴散らかされた道場主――烏賊不破の雄叫びは、心なしか上擦っているように聞こえた――あるいは裏返っている感じ。しかも烏賊不破の手にある物は練習用の木剣ではなく、長尺の真剣だった。

 

 さらに烏賊不破の両目には、殺意が如実に表わされていた。

 

 ところが名前を問われた道場破りには、怯む様子などまったくなし。逆にふてぶてしい態度で応じ返してきた。

 

「わしん名は板堰守{いたびつ まもる}じゃあ! 師を持たん流れの傭兵じゃけー!」

 

 その受け答えのやり方が、烏賊不破の癪{しゃく}に障りまくった。

 

「うおのれぇ! 傭兵ごときがようもここまで烏賊不破の名に泥を塗ってくれたもんやのぉ! 生きてこの場から出れると思うたらあかんでぇ! きえーーっ!」

 

 今度は怪鳥のようなボリューム満点の雄叫びを上げ、烏賊不破が長尺の剣を大上段に振り上げた。

 

 そのまま一気に、目の前の道場破り――板堰守に斬りかかる!

 

 道場主の腕は、完全に殺意が充満中! もはや力の加減など、微塵ほどにも考えていない。

 

だが、その刹那だった!

 

「うわあーーっ!」

 

 バキャッッと、板堰が振り下ろされた剣を、やすやすと左にかわした。そのために勢い余って前に突き出た烏賊不破の剣が、板で囲った練習場の壁を、見事粉々にバキバキバキィーーッと打ち砕いた。

 

 その破壊音が、道場の外まで響き渡るほどに。


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