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『剣遊記番外編U』

第一章  古都の狼藉者。

     (5)

 道場破りが現われた現場は、古{いにしえ}の都――西の帝都――京都市の郊外。嵐山の麓にある、烏賊不破{いかふわ}道場であった。

 

 ここ京都は言うに及ばず、近隣の大阪市や神戸市にまでその名が轟く名門道場――だからこそ、身の程知らずの道場破り気取りが、名声を狙って現われたのだろう。

 

 すでに道場の敷地周辺には、大勢の野次馬たちが集結。身の程知らずな道場破り戦士の顔をひと目拝見しようと高い塀を乗り越え、それを諫める門下生たちと、ひと悶着を起こしていた。

 

 そんな野次馬たちの中に、エルフの吟遊詩人も混じっていた。だけど華奢な体型から感じられる身の軽さとは、ほとほと無縁を自覚している非戦闘系職業の悲しさ。彼は高い塀に登って内部の様子を覗き見ることができなかった。その代わりに道場の門前で、その他大勢の野次馬たちといっしょ。敷地内から響く激闘の声音を聞くしか、他に内部の様子を探る方法がなかった。

 

 だけども吟遊詩人に不服の思いはなし。とにかく門の前に居さえすれば、中でなにが起こっても、すぐにわかると考えているからだ。

 

 「さすがは関西でも名うての名門道場でんなぁ☆ 私ども一般市民の方々をビビらせはるためだけで、これだけの人数の門下生の方々を出すことができますさかいに☀」

 

 彼がささやくとおりであった。門の周辺には二十人ばかりの若い戦士の卵たちがズラリと立ち並び、押し寄せる一般人をひとりたりとも道場内に入れないよう、少々オーバー気味なにらみを効かせていた。

 

 それでも実際、門のすぐ正面近くに建っている練習場からは、殴り込みをかけた道場破りと烏賊不破道場の門下生との一騎打ちが、ますます激しさを増している様子っぷり。これらがまた、道場の外にまでビンビンに伝わっていた。


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