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『剣遊記番外編U』

第一章  古都の狼藉者。

     (3)

「…………☁」

 

 主人はだんだんと、自分の視界がなんだか、霞むような気持ちになってきた。

 

(……こ、このエルフはんは、いったいなんやねんな? かなん人やなぁ……☁)

 

 すでにおしゃべりが始まってから数刻。吟遊詩人の舌禍は止まることを知らず。しだいに酒場全体の空気までも飲み込んでいった。

 

「そやさかい従いまして、現在の私がこの場にて存在しうることができますんも、すべてはここにある名も無き竪琴のおかげなんでございまするよ☞ 実際、これは私の手にませて、生涯の友と約束されはった時点よりも前、いったいどこの誰なる職人が創りはったもんなのか♋ 今となっては判然とはいたしまへん⛔ もちろん私とて世間様並みの俗物☻ その点が気になりまするゆえ、私なりに手掛かりを諸国に求めて参ったのでございまするが、けっきょくすべては徒労に帰してしまいはったさかいに……かと言って、もうやんぺることなく、この竪琴に対する愛着と愛情は盤石のごとき揺るぎないものでございまして、そやからこそこうしてご主人にご拝見をしていただき、もしかしはったらなんらかの手掛かりを御存知ではなかろうかと、尋ねている所存なのでございまする✄ もしよろしければ御主人、なんかわかることでもお有りであれば……✒」

 

道場破りやぁーーっ!」

 

 酒屋の主人にとっては、まさに天からの助け。突然表の通りから、なにかの騒ぎを告げる大声が轟き、それが店内にまで響き渡ったのだから。


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