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『剣遊記番外編U』

第一章  古都の狼藉者。

     (13)

 ところが吟遊詩人のほうは、板堰の疑念など、一切お構いなし。『勝手』の語句を、戦士から『勝手』に頂戴。さらに『勝手』に話を進める始末だった。

 

「まあ、そんなつれない返事はおっしゃらないでくれまへんか☂ 私はただ、偶然烏賊不破道場でのあなた様の戦いぶりに興味を感じて、そのままこのような嵐山の奥まで足を向けてしまいはったしだいだけでおまんがな♥ ところで私とて、エルフの長寿に加えて吟遊詩人の稼業も初めて長ごうなりまんのやが、お恥ずかしゅうことに本格的な道場破りっちゅうもんをご拝見させていただいたのは、実は本日が初めてのことなんでおまんのや♡ そしてこれもやはり職業柄なんでございましょうや⛑ 見るもの聞くものすべてが興味と研究の対象となりまして、ついあなた様のご同意も得ないままにこのような振る舞いに出てしまったわけなんでおますんや♣ まあ、そないなわけでございまして、その付近のお返しはいずれなんらかの手立てを使ってでも、陳謝を致したいと考えているしだいでございまして……⛐」

 

「ぐっ……☠」

 

 板堰は下くちびるを噛み締めた。それなりに数多の戦いで苦戦を強いられた板堰ではあった。しかしこのような精神的苦痛まで被った経験は、きょうが初めての日となったのだ。

 

 いい加減このエルフに黙っていただきたいのが本心。だがまるで、速射砲の連射のように、吟遊詩人の舌禍は止まることを知らなかった。

 

「そもそもなぜこの私なる者が、いかなる理由であなた様のあとを下世話にも追跡いたしたということでございまするが✌ ふつう、道場破りと申せば戦いに打ち勝った道場の看板を携{たずさ}えて次なる道場を訪れ、そのようにしはって次から次へと看板を集めていくものなのですけれど、あなた様の場合はすぐに看板を捨ててしまわれはったという行ないが、とてもと申すべきか非常に気になりまひたもんですからなぁ☂ もっともふつうの道場破りとて、戦利品である看板をいつまでも所持しているわけでものうて、ある程度の宣伝効果を果たした時点において処分をいたすのが常なのでするが、あなた様の場合はそれすらも否定なさっている雰囲気がございまんのや♠ そやさかい、もしよろしければこの私に、理由の一端でもお聞かせ願いたいものですが、いかがなものでございましょうや♣」

 

 ここでようやく、吟遊詩人が長ゼリフを、いったんであろうが打ち切った。これを絶好のチャンスとし、溜まるモノが充分以上に溜まっている板堰は、逆襲のごとく一気にまくし立てた。

 

「理由なんかないとじゃけー♨ わしゃあ強えーもんに勝ちさえすりゃーそれでええんじゃー! そやから武勇をひけらかす気なんかさらさらねえーーっ!」


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