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『剣遊記番外編U』

第一章  古都の狼藉者。

     (10)

 烏賊不破道場から表の通りに出た若い道場破りを出迎える市民たちの目は、皆一様に冷たい視線となっていた。

 

 それも大半は影に潜んで、ひそひそと中傷をささやいているばかり。中にはあからさまに、罵倒を浴びせる者もいた。

 

「このわやくちゃ人殺し野郎ぉ!」

 

 だが板堰は、まるで馬耳東風のごとく。黙々と道場から嵐山の方向に足を急がせるだけでいた。

 

 このような若い戦士の姿格好が、吟遊詩人であるエルフの興味を、大いに惹きつけないではいられなかった。

 

「なるほどぉ、型破りな戦士で道場破りでっかぁ……これはぜひとも本人様の話を、直接訊いてみたくなりもうしたわぁ♡」

 

 思い立つと、エルフの行動は早かった。それも道行く市民たちが、そろって板堰を避けて通る中だった。吟遊詩人だけが、彼のあとを堂々と追っていった。


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