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『剣遊記12』

第七章 戦士はつらいよ、北九州立志篇。

     (7)

「へっ?」

 

 これにはさすがのサングラス戦士も、思わず三白眼が点になる思い。そこへ博美から、トドメとも言うべき一撃――もとい返事の数々。

 

「じ、実はやーに言いたかったことやしが、せっかくやーに婿の世話を頼んでおきながら、実は婿が見つかったってことだわけさー♋ 実はさっき、ラリーの故郷のインドから手紙が来てやっしー、ラリーの婿にいっぺーじょーとーな、オスのアジアゾウが見つかっただわけさーって、書いてあったもんだわけさー☆」

 

「ラリーの婿ぉ? オスのアジアゾウ?」

 

 荒生田の点目が、さらに極小化した。これもサングラスの奥での出来事なので、目の前にいる博美には、まったくわからない現象であるのだが。

 

 それはとにかく、荒生田の内部で渦を巻いていた『真心』とやら――要するにストレートのプロポーズがこの時点において、完全に吹っ飛んだ格好となったわけ。

 

「す、するとぉ……君が前に言いよった『婿』とか『子供』ん話っとか、みんな象のことやったとね?」

 

 もはや声音が完全に裏返っている荒生田であった。しかしその状態にはまったく気づいてくれないほど、博美のほうは大喜びの真っ只中にあった。

 

「そうなんだばぁよ♡ 前に言ってなかったさー? まあとにかく、ラリーもいっぺー年ごろのいなぐー(沖縄弁で『女の子』)なのに、なかなかじょーとーないきがー(沖縄弁で『彼氏』)のオスが見つかんねえもんばぁよ、ずいぶん前からあちこちに相談しようねしてたんだけど、やっとさっき、インドで頼んでた仲間から、同じ年ごろのオスの象が見つかったって手紙が来たばかりばぁよ☀ これから早速インドまでりっかして、ラリーの結婚式りんどぉ✈」

 

「あ……そ、そげんね……それは良かったっちゃね……♧♤♢」

 

 ここまで話が別次元で進行すれば、もはや荒生田に語る言葉はなかった。

 

「じゃ、じゃあ……オレんほうの話はなかったことにしとくっちゃね……♢♤♧」

 

「悪いだある、そうよろしく頼むだからよー☆」

 

 サングラスの少ししょんぼり気味の笑顔に気づくはずもなく、博美はどこまでも明朗快活だった。今や愛象であるラリーの婚約者が見つかった話で、本当に頭の中がいっぱいのようなのだ。

 

「だからよー! 今からインドまで行く準備りんどぉー☆ ラリーもでーじうれしいだあるぅ♡♡」

 

 博美の喜びは当然自分自身の喜びとばかり、ラリーもパオーーッと、声高く吠え上げた。これまた荒生田の本心に、気づくはずもなく。

 

「……それじゃオレはこれで……♧♤♢♥」

 

 そんな博美とラリーを背中にして、荒生田は静かに馬舎の前から立ち去った。

 

 ひとりボソボソと、独り言をつぶやきながらで。

 

「また旅に出るっちゃね……裕志ば連れて……✈」


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