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『剣遊記12』

第七章 戦士はつらいよ、北九州立志篇。

     (6)

 同時刻。勇猛女戦士である博美の元へ、一通の手紙が配達されてきた。

 

それとほぼ同じくしてだった。

 

「や、やあ、ここにおったんちゃねぇ、捜したっちゃよ☺」

 

 実にわざとらしい感じで、荒生田が参上した。

 

 ちなみにこの場は、博美が愛象ラリーを繋留している、未来亭の馬舎の中。博美自身は特にする仕事が無いとは言え、ラリーのための水かけや体の洗浄など一日も欠かさずの世話は、決して忘れたりなどしていなかった。

 

「おう! 荒生田やっしー!」

 

 そのように彼女なりに忙しい最中の博美であったが、なぜか不機嫌の色は皆無となっていた。

 

 むしろ反対。上機嫌を感じさせる気持ちの良い笑顔で、サングラス😎の戦士を迎えてくれた。

 

「こりゃしゃにじょーとーなときに来てくれただわけさー♡ ちょうどやーに話してえことが、たった今できたんばぁよ♐」

 

「ちょうどええこと? まあそりゃこっちも、ちょうどええっちゃ☆ 実はオレかて、君に話したいことがあったもんやけねぇ☀」

 

 さすがに同業の戦士同士。話す前から気が合うもんちゃねぇ――と、内容を聞かないうちから、荒生田は博美に感心した。

 

 こうなれば、あとは話が早かぁ――ってところ。荒生田は早速、『オレの真心』をこの場にて、カッコよく伝えようとした。

 

「君が前にオレに言いよったっちゃねぇ☀ 『婿ばほしかぁ〜〜💛』ってことをやねぇ♐ で、話はそんことなんやけど✌」

 

 これでも荒生田としては、話をやや回り道気味にしているつもり。かなりストレート的な感じでもあるが、要するに『オレがそん婿になっちゃるっちゃ☆』と、このあとのセリフに付け加える気なのだ。

 

 ところが博美のほうはと言えば、これがあっさりとかわすような口振りでいた。

 

「ああ、言っただはず✍」

 

(あれ? 博美さんって、けっこう鈍感なとこがあるっちゃろっか?)

 

 当の本人(博美)を前にして、失礼な言葉をなるべく出さないようにしながら、荒生田は眉間に、少々のシワが寄るような気持ちになった。もちろんサングラスの下でのシワなので、博美からはこれが見えないはず。

 

(こげんなったらやっぱ、もうちょっと直行でプロポーズしたほうがええやろっかねぇ?)

 

 今がふつうのナンパ(?)であれば、それこそC調で女の子に『好き♡』だの『可愛かぁ〜〜♡』だの、軽薄に言いまくる荒生田であったろう。しかし本物のプロポーズなる事態は、実はきょうが初めての実戦なのだ。

 

 精神的重圧皆無の練習であれば、これがけっこう上手にこなせるモノ。ところが本番となればどうしても緊張感に負け、けっきょく実力を発揮できない素人芸人のような感じ――と言えようか。

 

 とにかく無駄な回り道や遠回しな言い方は、博美にはむしろ逆効果。その状況を改めて認識し直し、荒生田がセリフを、次の段取りへと進行させた。

 

「そ、そげん言うたら君は、他にも『子供ばほしい✌』っとか言いよったちゃねぇ♠ 実はそんこともあるっちゃけどぉ……♪」

 

 これのいったいどこが『ストレート』なのか。ところがそのとたんだった。

 

「いっぺーすまん!」

 

 博美が両手のシワとシワをバチンと合わせ、荒生田に突然頭を下げたのだ。


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