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『剣遊記12』

第七章 戦士はつらいよ、北九州立志篇。

     (5)

 少々のからかいを込めた感謝の礼を返し、黒崎が引き続きの話に移行した。

 

「そうなると、仲人も誰かに頼まないといけないんだが、僕は見てのとおりの独身だし、身内にもどうも、適役の人がおらんがね……」

 

「『なこうど』ってなんね?」

 

 ここで孝治の、意外な物知らずが発覚。呆れた感じの友美が、そっと耳打ちしてくれた。

 

「知らんかったとぉ? 仲人って結婚式んとき、新郎新婦の両側に夫婦で座って、いろんなことばまとめる人のことっちゃよ✍ これはふつう、夫婦でやるもんなんやけど、孝治は知らんかったと?」

 

「し、知らんちゃよ☢ おれっち今まで、結婚式なんち見たこと……あったっちゃ!」

 

 友美から痛い所を突かれ、両方のほっぺたをふくらませかけた孝治であった。そんなムカつき気分と、ほぼ同時。なぜか急に、重要な記憶が頭にパッと浮かんだ。

 

 我ながら変な思考回路っちゃねぇ――と、孝治は自分で自分を自嘲した。

 

「そげん言うたら秀正と律子ちゃんの結婚かて、仲間内やったけど一応立派にやったっちゃねぇ☀ あんときそん仲人っちゅうのやったの、いったい誰やったんやろっか?」

 

 いきなり湧き出た疑問であるが、今はそれがわかる術がなさそうだ。孝治は話を前に進めた。

 

「まあそれよか、そげんやったら夫婦っちゅうことで、秀正に頼んだらどげんでしょっか☆」

 

 つまりが秀正夫婦の名前が出たついで――である。

 

「なるほどぉ、秀正と律子君かぁ☆」

 

 これはある意味、突拍子極まる孝治の発案。しかし黒崎にも、特に異論はないようだった。すぐに前向きな姿勢に戻って、孝治の話に耳を傾けてくれた。

 

「そうだがや。秀正も荒生田の後輩なんだが、別に先輩の結婚の仲人を、後輩がしちゃいかんと言う法律も無いがね」

 

「その話はちかっと私から、秀正さんに頼んできますね♡」

 

 勝美も乗り気になっていた。

 

「ゆおーーっし! ……って、これは先輩の専売特許やったちゃねぇ☻ おれは『うわっち!』なんやけ☺ とにかくこれで決まりっちゃね☀ で、こんあとおれは、なんしたらよかですか?」

 

「そうだがやなぁ……」

 

 式の段取りがだいたい整いつつあるところで、孝治は再度黒崎に尋ねてみた。これに黒崎は、下アゴに右手を当てつつ答えてくれた。

 

「孝治と友美君には、荒生田の結婚をあっちこっちの知り合いに触れ回ってほしいがや。なにしろあいつは大変な派手好みだから、式を盛大にしてやったほうが、あいつもきっと大喜びするがね」

 

 孝治と友美、おまけで涼子の顔に、苦笑が浮かんだ。

 

「ほんなこつ、先輩は自己顕示欲がサングラス😎ばかけて、ついでに剣もぶら提げながらで日本中ほっつき歩いてるようなもんやけねぇ☻ まあ、ここはひとつ、後輩として骨ば折ってやりますけ☺」

 

「それじゃ頼んだがや。孝治に友美君」

 

「任せてくださいって☆」

 

「はぁーーい♡ わかりましたぁーーっ♡」

 

 孝治と友美。そろって元気の良い返事。こうなると、涼子も負けてはいなかった。

 

『あたしかて協力してあげるっちゃけ! そうっちゃ☆ 結婚式の会場でド派手なポルターガイスト{騒霊現象}の花火ば打ち上げて、会場ば大いに盛り上げてやるっちゃね☀☀☢』

 

「うわっち! そんだけはやめぇ!」

 

「それってすっごい近所迷惑っちゃよぉ!」

 

 幽霊が物騒極まる戯言を放言するものだから、孝治と友美は慌てて、涼子を止めに入った。つまりふたりして、なにも無い場でアタフタしたわけ。おかげでそのカッコ悪い有様を見た黒崎と勝美が、これまたふたりそろって、両目を白黒とさせていた。

 

「君たちはいったい、なにをやっとうがや?」

 

「のぼせっとう場合やなかばってんねぇ☠」

 

 勝美はともかく、黒崎もまさに彼らしくない仰天の顔をしていた。


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