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『剣遊記12』

第七章 戦士はつらいよ、北九州立志篇。

     (3)

 荒生田はわかっていた。

 

 彼女――城野博美には物理的な贈り物はもちろんのこと、回りくどい言い回しやお世辞の類でさえも、一切通用しないであろうと。

 

 そんな女豪傑なのだ。

 

 だからこそ根拠は不明であるのだが、ある意味確信に満ちた断言ができていた。

 

「『婿がほしい💛』なんち、ふつうの女じゃ言わんようなセリフば平気で口から出したりするけねぇ、しかも子供までほしいとよ☻ これは長い間、世界中の女性たちの間ば渡り歩いてきたオレの勘やからこそ、彼女には小細工一切抜きの正攻法しか通じんってことがわかるっちゃねぇ☞ まさしく裕志が言うとおり、真心で直球勝負しかなかばい☀!」

 

 などの面持ち丸出しでブツクサとつぶやきながら、夜の繁華街を闊歩する荒生田。このような状態であるものだから、こいつの周りには誰ひとり通行人が寄り付かず、むしろ気味悪がって周辺から遠ざけられているばかり。それでも荒生田自身は、自分を取り巻いている今の状況が、ちっともわかっていなかった。

 

「ゆおーーっし! 何度も言うっちゃが、小細工は一切抜きやけねぇ! 直接オレの真心ばストレートにぶつけちゃるとやけぇ!」

 

 それからひとり、声高々。街の中央広場にそびえ建つ、聖女のブロンズ像を相手にして、勝手にプロポーズの予行練習をおっ始める始末にもなった。

 

「まあ、聞いちゃってや♡ あんた……いや君は、オレが今まで出会ってきた女性たちとは、いっちょん違うなにかがあるっちゃけ、そればオレに調べさせてくれんね……いんや、これじゃますますいっちょん回りくどかっちゃ♐ もっとまともな、でたん正攻法で行ったほうがええっちゃけ☠ オレは君が作った味噌汁が飲みたかぁ☀ これじゃ専業主婦になれっち言いようようなもんたい✍ 君といっしょに冒険の世界に行きたかぁ……在り来たりやなかねぇ✄ オレの二世ば産んでくれ……っち、ストレート過ぎて、オレがぶっ飛ばされちまうっちゃねぇ……☢☠」

 

 こんな調子で、荒生田のひとり芝居が、延々と続いていた。すると今度は、怖いモノ見たさであろうか。周辺を野次馬たちによって、今度はいっぱいに囲まれている状況となっていた。

 

 ほんなこつ馬鹿みたいっちゃねぇ☻


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