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『剣遊記12』

第七章 戦士はつらいよ、北九州立志篇。

     (2)

「オレがけ?」

 

 これはまた異なことば言うもんちゃねぇ――と、荒生田は逆に、裕志に尋ね返した。

 

「オレは別に怒っちょったりなんかしちょらんけね☻ それどころか、おまえがオレんために骨ば折ってくれたこつ、すっげえ感謝ばしよんやけな☺ それともこんオレが、もっとなんかするっち思いよったんけ?」

 

「い、いえ! 滅相もなかです!」

 

 裕志は両手の手の平を荒生田に向け、慌てた感じで頭を横に振った。

 

 ここであまりにも深く追求しすぎたら、また逆ギレして、今度は四の字固めを仕掛けられるかも。今までの経験からして、まさに深入りは禁物なのだ。

 

 実際、裕志が持ってきた先輩への返答は『真心』などという、まさにかたちの無い抽象的な言葉のみ。しかし荒生田はこれに、真剣そうな面持ちで興味を示していた。おまけに後輩からの進言と称するにはかなり苦しい返答を、まともに受け入れているのだ。だからとりあえず、先輩の機嫌を損ねなかった話の成り行きで、裕志は内心にて、ほっと安堵の息を吐いていた。

 

「それよか真心けぇ……いや、オレはただやねぇ、花っとかアクセサリーなんかの物理的なモンばっかし考えちょったんやけどぉ……もともとそげなんが通じる相手やなか、っちゅうのもわかっとったんちゃね✌ しかしこれは、意外と盲点ってモンやったっちゃねぇ☺ いや、裕志、ありがとよ☆」

 

「は、はあ……どういたしまして……☁」

 

(ほんなこつこれば教えてくれたんは……由香のおかげなんよねぇ☺)

 

 裕志は今回、的確なアドバイスを与えてくれた給仕係のみんな――特に自分自身の恋人である由香に、内心で大きな感謝の念を抱いていた。

 

(由香にこんことば相談したら、女ん子への告白は量よか質やっち言うとやけねぇ☺ 先輩にそれが通用するかどうかいっちょん不安やったけど、先輩がここまでまともに話ば聞いてくれたっちゃけ、やっぱさすがに由香は女ん子やねぇ☀)

 

 それからひととおり、裕志の内心における述懐が終わったところだった。

 

「ゆおーーっし! 話は決まったっちゃ☆ 彼女にはヘタなプレゼントよか、こんオレの真心とやらを堂々とブツけちゃるけねぇ! もう一切の子供だましは無用なんやけぇ✌」

 

 大きな宣言らしき雄叫びのあと、荒生田がカウンターの丸椅子から、ガバッと立ち上がった。

 

「裕志ぃ! ここんツケば頼んだけねぇ! あとは任せるっちゃあ✌」

 

「ちょ、ちょっと、先輩っ♋ あ……行っちゃった……☠」

 

 半分仰天の後輩を酒屋に残し、荒生田ひとりだけ、さっさと夜の街へと消えていった。裕志はなんとも心細い思いで、カウンターに右手のひじを付けてアゴをのせ、深いため息を吐くだけだった。

 

「真心ったって……先輩、ほんなこつわかっとんやろっかねぇ〜〜☁」

 

 そんな魔術師の左肩をトントンとうしろから軽く右手で叩いて、酒屋の親父がひと言。

 

「あんた今、荒生田の野郎から、うちん店のツケば頼むっち言われたっちゃねぇ☻ じゃあ早速なんやけど、溜まっちょう三ヶ月分のツケ、代わりに払ってくれんね?」

 

「わわぁーーっ!」

 

 裕志の両目が、見事極まる点となった。


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