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『剣遊記12』

第七章 戦士{おとこ}はつらいよ、北九州立志篇。

     (1)

「先輩、ぼくに用ってなんですか?」

 

 現在、やはり暇な日々を送っている裕志が荒生田から呼ばれた時刻は、その日の夜。場所はいつも常連にしている酒屋での出来事。後輩として誘われる回数はしょっちゅうなので、裕志は特に覚悟を決めたわけでもなし。軽い気持ちで先輩に付き合っていた。

 

 でもって酒屋のカウンター。日本酒が注がれているコップを右手で握ったまま、荒生田はなんだかもったいぶるような口調で、裕志に酒気混じりである三白眼を向けた。

 

「おまえ……こん前の仕事ん途中で、オレがおまえに訊いたことば覚えちょうけ?」

 

「訊かれたこと……ですけぇ?」

 

 これに一瞬、記憶の引き出しをまさぐった裕志であった。だけどそこは、サングラス野郎との長い腐れ縁が、さっさとモノを言ってくれた。

 

「あっ、そうやった! 先輩がぼくに訊いたんでしたよねぇ☆ 女ん子ば心から喜ばすようなプレゼントば、なんがええかっち☀」

 

「そうそう、そういうこっちゃ✌」

 

 裕志がすぐに思い出してくれたので、荒生田も満足した気になって、頭をコクリとうなずかせた。

 

 もしもこのとき、裕志が不用意にも――なんでしたっけ?――などと答えようものなら、この場にてアウトであったろう。彼は怒りの先輩によって、コブラツイストをかけられたに違いない。もちろんそのような最悪の展開が容易に想像できるばかりに、裕志の口調は、どこか慎重気味となっていた。

 

「じ、実はですねぇ……✐」

 

「実はですねぇ?」

 

 裕志の顔を右横から覗き込む荒生田の三白眼は、このときまさに、真剣そのもの。裕志はツバをゴクリと飲むような気持ちになって、先輩に恐る恐るの思いで返答してやった。

 

「これはお店の女ん子たちに、真面目に相談して訊いたことなんですけどぉ……✎」

 

「なるほどぉ……あいつらけぇ……☛」

 

 荒生田の頭に、未来亭給仕係たちの顔がズラリと並んだ。裕志が返答を続けた。

 

「そん彼女たちが言うにはですねぇ……女ん子は男の真心ば求めちょう……っち言うとですよ♋」

 

「『まごころ』けぇ〜〜☘」

 

「せ、先輩……?」

 

「なんね?」

 

 このとき裕志は、不安げな気持ちで、荒生田に顔を向けていた。

 

「もしかしてぇ……そのぉ……怒っちょりませんか?」


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