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『剣遊記12』

第七章 戦士はつらいよ、北九州立志篇。

     (13)

 ゴォ〜〜ンと、どこかの山寺の鐘が鳴る。

 

 その音が響き渡る、ススキの茂る原っぱの真上の空を、渡り鳥の一群が飛んでいく。

 

 あほぉ〜〜 あほぉ〜〜――なる鳴き声は、どこからどのように聞いても、まさにそこら辺を飛んでいるカラスそのもの。しかしこの世界では、動物の正しい生態の表現法に、ある程度の無茶がまかり通っているらしいのだ。

 

 そんな空の下(一応夕焼けのようだ)、なにやら芝居じみている男の声がした。

 

赤城{あかぎ}の山も今宵{こよい}限り……可愛い子分のてめえたちとも、別れ別れになる門出っちゃねぇ☂ 来年の今月今夜のあの月ば、オレの涙で曇らせてみせるったい☃」

 

「親分、物語があればこればゴッチャになってますっちゃよ☠」

 

 黒い魔術師の格好をしている子分のツッコミには、完全に聞く耳持たず。

 

「見るっちゃ☝ アヒルが鳴いて、南の空に飛んで行きよろうも☛」

 

 右手に中型剣を構えた戦士がひとり(黒いサングラス😎をかけている)。大勢の子分たちを前にして、長々と口上を述べていた。

 

「親分……☁」

 

 やはり先ほどの魔術師の子分が、親分に向かってもうひと言。

 

「アヒルは飛べませんちゃよ✍ それに飛んでるのはあれで一応、カルガモって設定なんですから✎」

 

 実はこの設定も間違っているのだが(カルガモは渡りをしない)、このツッコミに対する返答は、彼の服の中のいったいどこに隠し持っていたのやら。でっかいハリセンを出しての、ベシッと軽い一撃。

 

「痛っ!」

 

「しゃーーしぃーーったい! オレがアヒルやっちゅうたらアヒルなんやけねぇ!」

 

 ハリセンで頭のてっぺんをしばかれた子分の裕志が、たちまちのうちの泣きベソの顔。そこへ身なりは戦士だけれど、唯一の女性(らしい)子分が、息を切らしてススキの原っぱに駆け込んできた。

 

「親分、てえへんでぇーーっす! うわっちぃーーっ!」

 

「どげんしたや、孝治っ! いってぇ何事っちゃねぇ!」

 

 すぐに親分が顔をニヤリとさせ、走ってきた理由を尋ねた。これに子分の孝治(?)が、一気にまくし立てた。自分の尻をさわろうとしている親分の両手を、パッパと右手で払いのけながらにして。

 

「親分、てえへんですっちゃ! 衛兵隊のやつらがここに攻めてきますぜぇ!」

 

「ぬあにぃーーっ! 孝治っ、それはほんなこつけぇ!」

 

 孝治の緊急報告で、原っぱにいる全員(だいたい二十人くらい)が飛び上がったとたんだった。

 

「荒生田和志っ! 御用でぇ!」

 

「神妙にお縄につきやがれってんだよぉ!」

 

 手に手に十手や御用提灯や太い縄、さらに梯子などを持った衛兵隊の取っ手どもが、一斉に登場。バラバラと荒生田たちを取り囲んだ。その中に、わざとらしいカイゼル髭を、鼻の下に伸ばしている隊長がいた。

 

「荒生田和志っ! きょうこそ貴様の年貢の納めどきだなぁ☻ ここはおとなしく、お上の裁きを受けるのだぁ✌」

 

 もちろん演じている者(?)は、大門信太郎。その隊長の号令一下。配下の衛兵たちが一斉に、荒生田たちに飛びかかる。

 

 これにてたちまち始まる、チャンチャンバラリの大活劇!


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