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『剣遊記\』

第六章 大海賊の落日。

     (8)

 馬図亀の帆船は、鬼ヶ島からすでに遠く離れていた。

 

 それを海岸まで追ったものの、帆柱と孝治にはこれ以上、手の出しようがなかった。

 

「腹立つっちゃねぇ! 最後の最後で取り逃がしっちゃあ!」

 

 孝治はヤケクソでわめいた。帆柱がそんな孝治を左横にして、目線は沖の帆船に向けたままで応じた。

 

「すまんばい✋ 俺が泳げんばっかしにやねぇ☻」

 

「そげなぁ! おれは別に先輩のことば言うたっちゃなかとですよぉ!」

 

 孝治は慌てて、頭を横にブルブルと振った。さすがに今回、あとで頭に激痛を感じたほどに。

 

 さらに友美も、一生懸命にフォローをしてくれた。

 

「そうですっちゃ! 先輩はそげなこつ気にせんといてください!」

 

 友美は『浮遊』の術が得意の専門分野であるのだが、なにしろ帆柱の体重が重過ぎる。だから無理に魔術を強行すれば、途中で海に落っことしてしまうハプニングは確実だった。

 

『それにしてもやけど、さっきの爆発はなんやったんやろっかねぇ?』

 

 同じく一同についてきている涼子が、このとき何気なくのようにつぶやいた。くどいけどやっぱり、涼子は帆柱には見えていない。それはとにかく、孝治は涼子に応じた。

 

「そうっちゃねぇ……今んなっては、ただのビビらせやったみたいっちゃけどぉ……☹」

 

 最初の爆発音のあと、帆柱と孝治はすぐになにかが出てくると考え、それぞれ槍と剣を構えて、その『なにか』を待ち続けた。

 

 ところがいくら待ってもなにも起こらず、業を煮やしたふたり(帆柱と孝治)は、元の目的である馬図亀追跡に戻ろうとした。

 

 しかし、時すでに遅し。ボヤボヤしていた間に、まんまと海賊どもに逃げる時間を、たっぷりと与えることになっていたのだ。

 

「俺の誤算やったばい☢ 奴らの計略に、こげんまんまと引っ掛かるっちゃけ……おっ?」

 

 万策尽きた顔付きである帆柱が、このときなにかに気づいたらしい。海上の一点に、まっすぐ目線を向け直していた。

 

「えっ? なんかおるとですか……うわっち!」

 

 孝治もつられて、海上に瞳を向けた。すると、それほど遠くない島の東側の海面に、なにやら得体のしれない泡立ちが、ブクブクと大量に発生していた。


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