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『剣遊記\』

第六章 大海賊の落日。

     (7)

 ところが千夏のお終いのセリフを耳に入れたらしい船員のひとりが、急に大きな声で言い放った。

 

「探し物け! それっち海賊が貯め込んどー財宝のことじゃろー!」

 

 美奈子の足が、この瞬間にピタリと停止。すぐに振り返って、声の主に尋ねてみた。

 

「お、おまいさんは、財宝の在り処を御存知なんでおますんえ?」

 

 美奈子の場合、『どないしてうちらが財宝を探しとるのがわかるんどすか?』などと、野暮な逆質問は行なわない。あくまでも宝の手掛かりさえあれば、それで万事OKなのだ。

 

 なお、声の主は、船員たちの中では最も年配者のようだった。だからかもしれないが、身なりも態度も、冷静沈着を絵に描いたような好人物――のような印象から見ても、恐らくは彼が、船長ほどの地位にある男であろう。

 

 その船長――じゃないかと思われる男が、もったいぶったしゃべり方で、美奈子に答えた。

 

「ああ、でーれー知っとーけー☆ わしらの船もそんために海賊に捕まってのー、こーして閉じ込められたんじゃきのー☹ ただ、こーなる前に強制的に宝運びもぎょーさんやらされたけー、やつらの隠し場所もよー覚えとうけー☆」

 

「ほんなら今すぐ、そこへ案内してくれまへんか?」

 

 美奈子の即答も、また素早い行動そのものと言えた。とにかくお宝が間近いともなれば、嘘か真かどうのこうのなど、今は言ってはいられないのだ。

 

 だが、そこはさすがに、船長(かもしれない)ほどの地位に登りつめた男だった。美奈子への返事も、かなりに狡猾気味なものでいた。

 

「案内してもええんじゃがー、それには条件があるけんのー☞ わしらを全員、こっから出してくれんかのー⛑」

 

「お安い御用どすえ✌」

 

 もはやなんのためらいもなし。さっそく美奈子はすべての檻に、『解錠』の術をかけて回った。それこそ『こんなに早ようできるんじゃったら、もっと早ようやってよー♨』――と言った感じで。

 

 とまあ、美奈子のこれまたもったいぶった行動っぷりは、この際棚に上げておく。

 

「ばんざぁーーい🙌♡ 助かったがなぁーーっ♡」

 

 経緯{いきさつ}はどうであれ、船員たちが大歓声を上げ、我先にと檻の中から飛び出した。

 

 いったい何十日間に渡って閉じ込められていたのか。誰もがとっくにわからなくなっているみたいだ。だがこれで、命が永らえたことだけは確実であろう。

 

 もっとも美奈子本人は、船員たちの喜びように関心はなかった。

 

「ほな、お約束どすえ☛ 海賊の宝の隠し場所へ案内してくれはるんどすな?」

 

 至極冷静な口調で、船長(だと思う人物)に催促を行なうのみ。これには船長も、たった今美奈子の魔術の実力を見せつけられたばかりなので、今さら約束を反故にはできなくなったようだ。そのせいか、見た目によくわかるほど、きちんと口約束を果たしてくれた。

 

「わ、わかったけー、こっちんほうじゃ☞」

 

 もしもこの場で、船長が『やぁ〜めた☠』などと冗談を抜かしたら、その瞬間に美奈子の魔術でぶっ飛ばされる事態となるであろう。

 

 魔術師をヘタに怒らせれば、まったく碌な結果にならない。その事実は、世の中の誰もが知り尽くしている。

 

 そんな物騒である美奈子と千秋と千夏をうしろに引き連れ、船長が先頭になって、地下通路をさらに奥へと進んでいった。

 

 洞窟の先は光がまったく存在しない暗黒の回廊となっているが、その問題はとっくに、美奈子の発光球で解決済み。千夏がその光に照らされながら、いかにも期待で胸さんがいっぱい中ですうぅぅぅの顔となっていた。

 

「わくわくわくぅ♡ 千夏ちゃん、とってもぉとってもぉお楽しみさんですうぅぅぅ♡ これでぇお宝さんがお山みたいにたくさんたくさんあったらぁ、もっとぉもっとぉうれしいでしゅうぅぅぅ♡」


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