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『剣遊記\』

第六章 大海賊の落日。

     (6)

 ドドーーンという爆発音は、美奈子と千秋・千夏のいる場所にまで伝わっていた。

 

「はて……今のはなんの音でおますんやろ?」

 

「千夏ちゃんもぉわかんないさんですうぅぅぅ?」

 

「まあ、なんにしてかて、千秋たちには関係あらへんことや☑」

 

 『さわらぬ神に祟りなし』も、美奈子たち流世渡り術の極意であった。

 

 とにかく三人は救助を求めているらしい者たちの声を頼りに、地下の鍾乳洞を美奈子が創った発光球で照らしながら進んでいた。しかも着いてみると、そこは予想をしたとおりの光景。海賊たちがこしらえた、地底の牢獄だったのだ。

 

 さらによく見回せば、ここはまるで体育館のごとくの、ダダッ広い空間。そこにたくさんの鉄格子の部屋が設置され、何十人もの囚人たちが、部屋ごとに小分けをして収容されていた。

 

 もちろん彼らは、本当の犯罪者などではなかった。全員が全員、海賊に拿捕された船の船員たちなのだ。

 

「ほんま、海賊はんたちも、ようやりますもんでんなぁ……♋」

 

 美奈子は驚きよりも、むしろ感心の思いで、牢獄の通路に歩み出た。すると突然現われた黒衣の魔術師に加え、まるで女忍者のような山娘と、ヒマワリのアクセサリーが目立つ町娘たちの姿に彼らは気がつくなり、大勢で鉄格子から両手を出して、救いを求めてきた。

 

「あ、あんたらぁ! 助けのモンけぇ!」

 

「きっと衛兵隊の依頼で来たんがねぇ! 早よこっから出してんかぁ!」

 

 だけど、これほど切羽詰まっている様子の彼らを前にしても、美奈子の返事は冷淡そのもの。

 

「おあいにくなんどすけど、うちらは今、仰山忙しい身なんでおますんや☚☛」

 

 ここで要らぬ足手纏いは面倒とばかり、美奈子は歩足を速めて、牢獄の前を通り過ぎようとした。

 

 このとき千秋も無言。思いは師匠と同じであろう。また千夏までが、一応は申し訳なさそうに頭を下げるのだが、『助けて😭』の声にまったく応じない点では、美奈子とほとんど同類であった。

 

「ごめんなちゃいですうぅぅぅ♥ 千夏ちゃんたちぃ、とってもぉ大事なぁ大事なぁ探し物さんがぁあるんですうぅぅぅ♥♥」


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