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『剣遊記\』

第六章 大海賊の落日。

     (11)

「ま、待たんかぁーーい! 俺たちゃおまはんの飼い主なんやでぇーーっ!」

 

 いくら馬図亀が叫んだところで、グギャグガアオオオオオンンと咆哮するシー・サーペントに、まったく聞く耳はなかった。

 

「じゃけんシー・サーペントば何年飼{こ}うたかて、おいどんたちにはいっちゃん馴れんっち言うたでがぁ!」

 

 美蝿たち子分も大騒ぎ。そんな渦中の帆船に、シー・サーペントがその巨体を、真上からドスンと圧し掛からせた。

 

「わひぇーーっ!」

 

「神様、お助けぇーーっ!」

 

 バキバキバキグアッシャアガアアアアンンと、帆船はたちまち積み木細工のごとく崩れ落ち、馬図亀たちが海面に放り出された。

 

「わわわあーーっ! 溺れるぅーーっ!」

 

 半魚人のくせして、馬図亀はカナヅチであった。そこをシー・サーペントが海上に鎌首を高く持ち上げ、海面で溺れる海賊たちに狙いをつけた。

 

もともと『飼い主』などという概念はなし。海賊どもをひと飲みしようと、一気にグギャアアアアアアッと襲いかかるつもりなのだろう。

 

「どっひゃあああああっ☠!」

 

 これが大海賊馬図亀の最期――と言いたいところだった。

 

「きゅおおーーん!」

 

 ところが突如として、海面からザバババアアアアアアンンとシャチが飛び上がった。しかもグギャアオオオオオオッッと吼えるシー・サーペントの下アゴに、頭突きによる強力なアッパーカットをガツンと喰らわせたのだ。


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