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『剣遊記\』

第六章 大海賊の落日。

     (1)

「お宝さん、見つかんないですうぅぅぅ☂」

 

「そうでんなぁ……☁」

 

「師匠も千夏も、辛抱足らんで、ほんま☃」

 

 美奈子と双子姉妹の三人は、すでに長い時間を費やして、海賊たちが隠れ家にしている島の鍾乳洞内をさまよい歩いていた。だけど、お目当てである金銀財宝の隠し場所は、なかなか発見できなかった。

 

 実際、鬼ヶ島の地底は鍾乳洞が迷路のように広がっていて、海賊どもはそこを根城にしている様子。これならば確かに、並みの衛兵隊では捕まえきれないはずである。

 

 しかもときどき、洞窟の所々で、かろうじて残っていた海賊の下っ端どもと出くわした。

 

「あっ! なんやチミたちぃ!」

 

「はあっ!」

 

「ぎゃんっ!」

 

 彼らは簡単に、美奈子の『衝撃波』の術で片付けられた。余談ではあるが、今の下っ端は『ボクチン』などと自称していた弟分の海賊であった。美奈子たちにはまったく関係ないけど。

 

 ところが気絶をさせてから、美奈子たちは同じような後悔を、もう何度も何度も繰り返していた。

 

「師匠、あかんで☢ このチンピラのニーちゃん、しょっぴいて白状させたほうが良かったって思うんやけどなぁ☹」

 

「そうどすなぁ☕ 次から気ぃつけましょ⚠」

 

 美奈子はこのようにして、千秋には一応謝った。だけどもけっきょく、何度出くわしても、美奈子は同じ過ちを連続させていた。

 

 これはもう、美奈子のけっこう危なくて、攻撃的な性格としか言いようがなかった。

 

 彼女はこれでも、京都の名門出身のはずなのだが。

 

 そんな矢先の出来事だった。千夏が突然、洞窟の先に右耳を傾けた。

 

「あれぇ? ちょっと待ってくだしゃいですうぅぅぅ☀ こちらのぉ廊下さんのぉ向こうからぁ、なんだか知らないおじちゃんたちのぉ、お声が聞こえますですうぅぅぅ?」

 

「それって、ほんまでっか?」

 

 美奈子も耳を澄ませてみた。しかしそれこそ、ウンともスンとも聞こえなかった。それでも美奈子は、自分の愛弟子を信じていた。

 

「どうやらこの洞窟の奥行ったところに、海賊はんの溜まり場でもおますみたいでんなぁ⛪」

 

 これに千夏が、頭を横に振って応えた。

 

「美奈子ちゃぁぁぁん、どうもぉ違うようさんですうぅぅぅ⛌ なんだかぁ『助けてくだしゃぁぁぁい😭』なんてぇ、言ってるみたいですうぅぅぅ⛑」

 

「それやったら、海賊に捕まっとる人たちやないか? 師匠、そこ行ってみようやないか✈」

 

 千秋の進言に、美奈子は軽い相槌を打った。

 

「そうでんなぁ⛵ そうしましょっか✍」

 

 これではいったい、どちらが師匠でどちらが弟子なのか。その論は、今は棚に上げる。とにかく根拠はかなり薄弱なのだが、三人は強引に、自分たちの行く先を決定。美奈子が先頭に立ち、洞窟の奥――千夏の言う声が聞こえるという方向に、そろって足を向けた。

 

 実を申せば、美奈子はあまり関心を示していなかったのだが、三人も海賊に多くの船員たちが囚われている話は聞いていた。

 

ただし、関心は『あ、そうでっか♠☹』という程度の話。そんな薄情な彼女たちであるから、美奈子は千秋の問いに対し歩足を速めながらで、悠然と答えるだけだった。

 

「師匠、海賊に捕まっとる人たち、ついでに助けまっか?」

 

「そうでんなぁ……まあ捕まっとるお人たちからは、宝のある場所を聞くだけにしときますわ✍ 救出は孝治はんたちに任せてやね✊」

 

 美奈子の辞書に、『奉仕』と『情け』と『正義』と『慈愛』の文字はないのだ。


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