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『剣遊記[』

第五章 フェニックス作戦第一号。

     (8)

 清美はなおも、三枝子を攻め続けた。

 

「あたは崖からつこかして(熊本弁で『落ちて』)、ずっと気絶ばしとったんよねぇ☛ それがどぎゃんして、フェニックスん血ば手に入れられたとや? しつこいようばってん、あたいは何事も納得が行かんまんまうっちょける(熊本弁で『ほっとける』)ちゅうんが、世ん中でいっちゃん好かん性分なんばいねぇ!」

 

 これに攻められる側の三枝子は、やっぱり答えられないでいた。

 

「や……やけん……そのぉ……☁☁」

 

 この状況を、上から見ている涼子がつぶやいた。これが本当の『上から目線』か。

 

『予想したとおりっちゃけど、こげんなるっち思うとったばい☠ でもこれは三枝子さんが自分で決めたことなんやけ、あたしが助けるっちゅうこともできんばいねぇ〜〜♐♑』

 

 そのような裏事情を知らない友美が、やはり裏事情を知らない孝治に、そっと耳打ちでささやいた。

 

「孝治、三枝子さんば助けるんも兼ねて、あんことば訊いてみたらどげんやろっか?」

 

「うわっち? 訊くっちなんを?」

 

 孝治は初め、友美の言っている話の内容が、頭にピンとこなかった。その辺の意を酌んだ友美が、すぐに言葉を具体的に言い直した。

 

「忘れたと? フェニックスの血ぃ飲んだら、もしかしたら孝治が男ん子に戻れるかもしれんってことっちゃよ✈」

 

「うわっち……そうやった✍」

 

 しかし自分から言い出したものの、友美自身は、果たしてフェニックスん血がほんなこつ孝治に効くっちゃろっか――と、今でも計りかねている――そんな顔付きをしていた。でも『案ずるより産むが易し✌』であろうか。友美からそそのかされた格好で、孝治はだんだんとその気になってきた。

 

 一番最初は涼子から。それから今は、友美からの誘惑なのであろうか。

 

「や、や、やってみるっちゃね☚♪」

 

 震える口調のまますぐに、孝治は清美と三枝子の間に割って入った。

 

「ちょ、ちょっと、そこのおふたりさん……☻」

 

「あんねぇ!」

 

 予測どおり、女豪傑こと清美の目線は、とても険しいモノだった。孝治はこのド迫力に、早くもビビりの極致となった。

 

 それでもなんとか、言葉をつむぎ出す。

 

「……い、いやぁ……まあ、このぉ……おれが言うんもなんやけど……入手のいきさつなんち、今さらどげんだっちゃよかやない☺ こげんして目的ん物が無事に手に入ったことやし……なおかつ平和利用もされることやしね……☀☁」

 

 孝治のセリフには、かなりの部分で荒生田先輩からの受け売りが混じっていた。


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