前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記[』

第五章 フェニックス作戦第一号。

     (6)

「はい、これがフェニックスん血です☟」

 

 しばらく待ってから、三枝子が戻ってきた。しかも彼女の右手には、例の白い布切れが握られていた。それも真ん中の箇所に血を思わせる、赤い色がにじんでいる状態で。

 

「これ……ほんなこつ?」

 

「はい、本まモンです✌」

 

 清美を始め、孝治など全員が疑いの眼差しで、血(?)染めの布切れに注目した。実際にこれではどう贔屓目に見ても、信頼度が限りなくゼロに近い代物だった。たとえ三枝子が、自信満々に断言をしても。

 

「どぎゃんかして、これが本モンっちゅうこと、証明できる方法ばなかとかねぇ?」

 

 布切れをジッと見つめたままで、清美がささやいた。そこへ彼女のうしろに立つ荒生田が、ポンッと軽く両手を打ち鳴らした。

 

「ゆおーーっし! いい手があるっちゃね♡」

 

 なぜか自信たっぷりに言い切ると、裕志と孝治に向いて、ふたりを手招きで呼び寄せた。

 

「おまえらちっと、近こう寄れ☻」

 

「はい……なんですか?」

 

「うわっち?」

 

 呼ばれて馬鹿正直に寄るところが、ふたりの後輩の悲しい習性といえた。

 

「ゆおーーっし! よう来てくれたっちゃ♡ まずは向き合って並べ!」

 

「?」

 

「?」

 

 言われるがまま、孝治と裕志は対面の格好で向き合った。すると荒生田が孝治の背後に回りながら、裕志に言った。

 

「よかっちゃね、裕志、こればよう見るっちゃぞ☞☞」

 

「はい……?」

 

 裕志がこれまた、馬鹿正直に返事を戻したとたんだった。

 

「うわっち!」

 

 荒生田がいきなり、孝治の鎧と上着をガバッと、両手でまくり上げる暴挙に出た。

 

「うわっちぃーーっ! せ、先輩っ! なんしよんですかぁーーっ!」

 

 この突然なる狼藉に、孝治は思いっきりの怒声を張り上げた。それはなんと言っても、油断を突かれた格好で上半身を脱がされ、孝治の(実際に大きな)胸――おっぱいがプリンッと、モロにモロ出しとなったからだ。しかし荒生田は仰天しきっている孝治には構わず、裕志相手にがなり立てるだけ。

 

「ゆおーーっし! 裕志ぃ、これば見ぃ♡ この純生のパイオツばっ♡」

 

「ぶふっ!」

 

 まさに形の良い(本人苦笑)孝治のバストを、まともに見せつけられた格好。結果、裕志のふたつの鼻孔から、ブシュウーーッと大量の血液が噴出した。

 

「あぶぶっ!」

 

「上出来☆ 上出来!☆」

 

 裕志のうめき声をなんの頃合いと判断したのか。荒生田が今度は、三枝子に向かって叫んだ。

 

「ゆおーーっし! 今ばい! フェニックスの血ば裕志に飲ませんしゃい!」

 

「は、はい!」

 

 荒生田の勢いに圧倒されたか。三枝子も大慌てで、血染めの布を鼻血でジタバタしている裕志の口に、ほぼ無理矢理で押し込んだ。

 

あぼがどっ!」

 

 鼻からは出血。さらには口に布切れで、裕志はもう窒息寸前。すると全員が見ている前で、驚くべき変化が発生した。

 

 友美がビックリの表情をあらわにした。

 

「ああっ! 鼻血が治ってくぅーーっ!」

 

 まさにそのとおり。裕志の出血がみるみる収まり、ついにはピタリと止まってしまった。

 

 つまり、いつもはちり紙を何枚も必要とする事態が、見事短時間で全快したわけ。

 

「おおーーっ! これは本まモンばぁーい!」

 

 さすがの清美も、この珍現象を目撃して、心底からたまげたような顔をしていた。こんな有様であるから、本物の検証に大きな貢献(?)を果たした荒生田は、もう鼻高々の天狗状態。

 

「どげんや、見ろ見ろ! こんオレの証明方法ば♡」

 

 だけれど、これで収まらない者がひとり。孝治である。

 

「せ……先輩っ☠」

 

「ん? どげんしたとや、孝治☻」

 

「ようも、こげなしょーもなか真似んために、おれば恥ずかしか目に遭わせてくれたっちゃですねぇ……☠」

 

 孝治の思いっきり怨念を込めた裏声は、ノドの奥から直接搾{しぼ}り出されていた。しかしもちろん、これくらいのハッタリでビビるような荒生田ではなかった。このサングラス😎野郎は平然としたにへら笑いを、孝治に贈り返すだけだった。

 

「しょーもなかやなかぞ✌ これでフェニックスん血がただの伝説やなかっち証明されたんやからな☆ やけんオレの儲け……やなか、これで多くの不治ん病に苦しんじょる人たちば助けられるわけであって……☀」

 

「御託なんぞ聞きとうなかぁーーっ!」

 

 孝治の特別製大型ハンマー(登場経緯不明)が、荒生田のドタマをボグッと直撃! 頭が胴体にめり込んだ。

 

 この一方で、しょーもない馬鹿騒ぎなど気にも留めていない清美が、三枝子に言った。

 

「わかった♐ フェニックスん血が間違いのう手に入ったことは認めるばい♠」

 

「うれしかぁ♡ やっと信じてくれるんやねぇ♡」

 

 三枝子が飛び上がって喜んだ。そこへ清美が、さらに続けた。

 

「で、こん血ばいつ手に入れたとや?」

 

「あ……☁」

 

 三枝子、絶句。

 

「そ、それはやねぇ……☂」

 

 またもやしどろもどろ気味となった三枝子。幽霊涼子が、そんな三枝子の頭上から、どこか他人事気分のように眺めていた。

 

『やっぱりっちゃねぇ〜〜☢ あれじゃあどげん考えたかて、誰にも言えんっち決まっとうっちゃけ☠』


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system