前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記[』

第五章 フェニックス作戦第一号。

     (4)

 話を少々遡る。

 

 三枝子とフェニックスの精神同士が融合を行なっている間にも、ふたつの心は会話を続けていた。

 

(ほんなこつですか? 合体ばしたら、あたしん血にあなたと同じような、病気っとかケガば治す力が宿るとですか?)

 

 三枝子はなんだか、一気にテンションが上がる気分となった。

 

それも無理はないだろう。最も念願であった治癒の力を、フェニックスが無償で譲ってくれるようなかたちの話であったから。

 

 これにフェニックスが、優しい口調で答えてくれた。

 

『そうです☺ あーたは病気のお母さんに飲ませるために、うちの血ば求めて来たっち言いよりましたね☞ やけど合体ばすれば、もうそん必要はなかとです✌ 帰ってご自分の血ば飲ませてあげたら、あーたのお母さんの病気は治りますけ✌』

 

(良かったぁ♡ そんだけでもあなたと合体する甲斐っちゅうもんがありますばい♡)

 

『そやけど、ひとつだけ忠告しときます✄』

 

(えっ? なんですか?)

 

 三枝子は眉にシワが寄る気になった。そんな気持ちでいる三枝子の意識に、フェニックスの声が淡々と伝わってくる。

 

『もしも……なんやけど、あーたがうちと合体ばしちょることが世に知られたら、きっと邪{よこし}まん人間が特効薬になったあーたの血ば求めて、まっごあくしゃうつような真似ばやらかすかもしれんとです☢ うちはそれば、おめきたい(熊本弁で『叫びたい』)ほど恐れちょります☠☁』

 

 やはりそのような理由で、人に追われた苦い経験を持つのであろう。そんなフェニックスならではの忠告だった。これに精神だけではあるが、三枝子はコクリとうなずいた気になって、さらに胸を叩くような気持ちで応えてやった。

 

(わかりました☀ こんこつば絶対に誰にもしゃべりませんけ♐ たとえ家族や友達でもね♠)

 

 このとき三枝子の精神の脳裏に、母親や村の人々、さらに清美や孝治たちの顔がポッと浮かんだ。

 

 これから仲間ん人たちに、今からずっと隠し事ば続けんといけんのやねぇ――そう思うと、三枝子はそれなりに心苦しい思いとなった。しかし、無用の騒動ば避けるためには、これも仕方なかばいね――と、三枝子考え直してもみた。とは言え、世の中には必ず場合や例外もある。三枝子は恐る恐る尋ね返してみた。

 

(でも、バレんようにして、病気やケガで苦しんじょる人ば助けるのは、良かでしょ?)

 

 フェニックスはこの問いに、意外と思えるほどの寛容ぶりで答えてくれた。

 

『わかりもうした♡ そぎゃんことであれば、うちかてうれしい限りです☀ あーたならきっと、うちの血の真っ当な使い方ば、わかってくださるでしょうから☺』

 

(はい! 任せてください♡)

 

 今や精神だけの存在となっている三枝子は、再度自分の胸を叩く気分で、フェニックスに向けて大きくうなずいた。

 

『それではお終いになりますけど、この際やから、うちがあーたに授けるもうひとつの力についても申しておきますけ✍』

 

(えっ? まだなんかあるとですか?)

 

 やはり精神だけだが、三枝子はフェニックスに聞き耳を立てる気になった。

 

『実はですねぇ……✍』

 

 三枝子とフェニックスの会話は、永遠のように長い時間を費やしていたようであった。ところが本当は、極めて短い、ほんの一瞬の間の出来事でしかなかったのだ。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system