『剣遊記[』 第五章 フェニックス作戦第一号。 (32) 「ゆおーーっしっ! 勝負が着いたみたいっちゃぞぉーーっ!」
「やったぁーーっ!」
荒生田が歓喜の雄叫びを上げ、周りの後輩たちからも(もちろん孝治も)、自然発生的な万歳三唱が湧き上がった。
「ばんざぁーーい🙌! ばんざぁーーい🙌! ばんざぁーーい🙌!」
たった今まで、船酔い状態で体調不良を訴えていた体のはずなのに、みんな現金なものである。
そんな観客たちが見守る前。フェニックスは倒れているサイクロプスの周囲を、しばらく旋回し続けていた。だけど、これでもう大丈夫と判断したようだ。翼を自分の棲みかである、根子岳の山頂へと方向転換させた。
このときフェニックスが、一行の真上を高速で通過。
「あら?」
「どげんしたっちゃ? 友美?」
「いえ……今フェニックスがこっちばチラッっち見て、ついでにウインク😉までしたような気がしたっちゃけどぉ……♋」
友美と孝治にこのような会話をさせる仕草を残して、フェニックスは山の彼方へと消えていった。
「まっ、よかっちゃね☺」
フェニックスへの畏怖感と恐怖心が、今でもやや身に沁み付いている孝治ではあった。だけど行ってしまえば、あとは空元気を復活させるだけ。
「まあたぶん、フェニックスかてサイクロプスばしばき倒したもんやけ、きっと気が晴れたっちゃよ☀」
「……そげんことっちゃね☺」
多少思いに違いがあるようだが、友美も孝治のセリフに、一応納得してくれた。
『まあ、ふたりがそげん風に思うちょるんやったら、それでええかもね☆』
唯一真実を理解している涼子が、これも孝治と友美には聞かれないよう、またもやそっとつぶやいた。それにしても幽霊としての特性上仕方がないのかもしれないが、涼子は人の秘密を自分の胸にかかえ込んでしまう事例が、真にもって多いようだ。しかも、なまじ言って良いことと悪いことの判断ができるだけに、かえってかかえる秘密の在庫が増える傾向にもなっていた。
『あ〜あ、幽霊かて悩めることが多かっちゃもんやねぇ〜〜☻』
涼子はここでも、気持ちだけのため息を口から吐いた。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |