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『剣遊記[』

第五章 フェニックス作戦第一号。

     (27)

 このようにして見守っている者たちの思いなど、もはや完全に無関係。フェニックスとサイクロプスの激闘は、早くもクライマックスの様相を呈していた。

 

 グボゴォォォォォォッッ!

 

 サイクロプスが再び吼えた。体格の巨大さでは、フェニックスに一歩も引けを取らないサイクロプスであった。しかし知性でかなり劣る分、どうしても腕力に頼るしかない傾向があった。そのためか、右手に持った大木を、力任せでめったやたらに振り回し、頭上のフェニックスを叩き落とそうとするばかり。

 

 対するフェニックスには、もともとから人間に匹敵――場合によっては上回るほどの頭脳があった。しかも現在は、本職の格闘士である三枝子の意思で活動しているのだ。

 

(思うちょったとおりばってん、やっぱしサイクロプスって、動きがバリ鈍かばい♡)

 

 三枝子は女子同士の格闘戦だけではなく、特例で男子とも戦った経験がある話は、清美や孝治たちとの会話の中で、すでに紹介済み。中でも一度お手合わせをした大男は、鍛え上げた腕力が自慢の巨大漢だった。

 

 ただしこの男。腕の筋肉は確かに三枝子の数倍の太さがあるものの、瞬発力がまったく問題にならず、呆気なく三枝子の真空飛び膝蹴りの前に屈したのである。

 

 現在瞳の前にいるサイクロプスは、まさにそのときの巨大漢と、まったく同じタイプの相手と言えた。

 

(言うたらなんやけど……こんサイクロプスかて鍛練不足みたいやねぇ☻ まあ、野生の怪物がトレーニングば欠かさんっちゅう話は、聞いたことなかばってんが☠)

 

 そうと認識さえできれば、あとは素早く敵の弱点を突いて、戦いを手早く終結させたほうが得策であろう。

 

 サイクロプスの弱点――それは誰が見ても一発でわかるとおり、巨大なひとつ目でしか有り得ない。その他の体の表面はすべて、鋼鉄の鎧のような皮膚に覆われているのだから。

 

 だがそれがわかっていても、三枝子はサイクロプスの目を、するどいくちばしで突こうとは思わなかった。

 

 目が弱点であることは、恐らくサイクロプス自身も、自覚をしているはずである。だからうっかり手――ではなく、くちばしを出せば、どのような逆襲を喰らう破目になるのか。実際わかったものではなかった。その代わりに三枝子は甲高く叫んで、上空からサイクロプス目がけてのダイビングを決行した。

 

 キュオオオオオオオオオッ!

 

 それから真正面に突っ込む――と、見せかけただけだった。三枝子はなんと、待ち構えるサイクロプスの右手から、両足の鋭いかぎ爪でガシッッと、武器である大木をつかんだのだ。

 

 これに慌てたサイクロプスが、天高く吼え上げた。

 

 グボガボオオオオオオオオッ!

 

 しかし三枝子は構わずに大木をガッシリとつかんだまま、再び空へと舞い上がった。するとその反動で、右手で大木を握ったままであるサイクロプスがバランスを崩してもんどり打ち、ドドーンとずりコケる始末。さらに巨体をゴロゴロと、地面の上で転がさせた。


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