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『剣遊記[』

第五章 フェニックス作戦第一号。

     (26)

 その忘れ去られている孝治は、やはり忘れ去られている友美といっしょ。これから始まるであろう超重量級の戦いに巻き込まれては一大事と、とにかく一生懸命、高台を目指して走っていた(今の時点において、高台にメンバーがそろっている――ということは知らない)。

 

「ど、どうやら、おれたちゃ助かったみたいっちゃねぇ! いきなり参戦したフェニックスに感謝感激やね!」

 

 とりあえずほっとひと息の孝治であった。だけど友美は不安そうな顔で、うしろを恐る恐る振り返っていた。

 

「でもぉ……フェニックスがいきなり飛んできたんも不思議っちゃけどぉ……わたし、三枝子さんがどこにおるんか心配っちゃよ☹ ちゃんと逃げちょったらええとやけどぉ☁」

 

 友美のセリフに孝治は、三枝子なんか、もう思い出したくもなか――という心境になった。

 

「知らんばい! あげなやつ!」

 

 孝治は思わず怒鳴った。理由は友美も承知しているはずだが、三枝子が突然、ひなワシを孝治に押し付け、自分はさっさとどこかへ消えてしまったからだ。これに腹を立てなかったら、まさに鈍感もここに極まれり――と言ったところか。

 

「勝手におれたちに鳥ば投げ出して、自分ばっかひとりで逃げくさってからぁ! 変な成り行きで旅ば同行したっちゃけど、あいつとの付き合いはもうお断りちゃけね!」

 

 これを右横で聞いていた涼子は、小さなため息をこぼしていた。ちなみに幽霊の場合、あくまでもため息の真似ごとであるが。

 

『緊急でしょうがなかったんやろうけど、三枝子さん、やり方がまずかったちゃねぇ☢ やけん孝治から、要らん誤解ば受けてしもうて……☠』

 

 このあと涼子は上空で舞い続けるフェニックスを見上げ、孝治と友美にも聞こえないよう、小さな声でささやいた。

 

『あたしは秘密ば守ってやるけ、この誤解はあとで自分自身で解くっちゃよ、三枝子さん☀』


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