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『剣遊記[』

第五章 フェニックス作戦第一号。

     (22)

「うわっちぃーーっ!」

 

「ああっ! ほんなこつぅーーっ!」

 

 孝治と友美も、それに気がついた。

 

 まさに別名『火の鳥』の俗称にふさわしく、フェニックスが黄金色――あるいは七色の翼を光り輝かせて、遥か上空から地上に向けて、見事な降下を行なっているところだったのだ。

 

「うわあっちぃーーっ! こげなときにフェニックスまで来ようっちゃあーーっ!」

 

 どうして今になって、姿を消していたフェニックスまでが、のこのこと現われたのか。しかし問題の『今』は、そのような理由の詮索どころではなかった。とにかく孝治たちにとって、絶体絶命の危機が、倍加されただけの話なのだ。なにしろサイクロプスから追われる前は、当のフェニックスから攻撃されていたのだから。

 

「もうこれでお終いっちゃあーーっ!」

 

「きゃあーーっ!」

 

 孝治と友美は究極の最悪事態に、そろって口が張り裂けんばかりの悲鳴を上げた。ところが涼子だけは正反対の、これも見事極まる冷静な反応ぶりを示していた。

 

『あのフェニックスはきっと、最初んのうとは違ごうちょるはずっちゃね☆ きっと絶対、三枝子さんが関係しちょう……っち思う✍ やけん、あたしたちの味方ばい✌』

 

 三枝子の体に小型フェニックスが乗り移る光景を唯一、ただひとり目撃していた涼子である。だからこそ、危機一髪のときになって飛来してきたフェニックスは、まさにそうとしか考えられなかったのだ。

 

 また、サイクロプスもすでに、足元にいる孝治たちから、関心を失った様子。空から舞い降りる新たなる脅威のほうに、たったひとつの目線を向けていた。

 

 それからすぐに、サイクロプスは大きな吼え声を上げた。

 

 ゴボガァァァァァァッッ!

 

 この吼え声は明らかに、フェニックスへの敵意を示したものだった。

 

 人間いじめが大好きなサイクロプスではあった。だがさすがに、目の前に新しい巨大な敵が現われたとなっては、それに立ち向かわずにはいられないようだ。

 

 グオォォォォッ! ゴボッ! ゴボッ!

 

 持ち前の好戦本能を剥き出し。サイクロプスが今度はフェニックスに向けて、長い大木の棍棒を振り回した。

 

『今んうちっちゃ! 早よこっから逃げんと!』

 

「うわっち!」

 

 いまだ小憎らしいほどに落ち着いている涼子から急き立てられた格好。孝治と友美は慌てて、サイクロプスの足元から駆け出した。

 

「よくわからんちゃけどわたしたち、あのフェニックスに助けられたとやろっか?」

 

 今も孝治の左手を握っている友美が、うしろを振り返りながらでつぶやいた。孝治はこれに、刹那的な気持ちで応じてやった。

 

「そげなんわかるもんけ! とにかくどっちも凶暴みたいっちゃけ、鉢会えばケンカば避けられんのとちゃうけ!」

 

 しかし涼子のみ声には出さず(孝治と友美には聞こえるから)、内心でそっとささやいていた。

 

(絶対にあのフェニックスは三枝子さんばい☝ でもこんこつ、誰にも言わんほうがええっちゃろうねぇ☻)


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