『剣遊記[』 第五章 フェニックス作戦第一号。 (21) この間も孝治は、大災難の真っ只中にいた。
ボガッ ドゴッ ガボッ――と、何度も連打されるサイクロプスの棍棒を、それこそ右に左にとかわしながら、必死の逃走を決行中。しかしそれにも限界があった。この事態の最悪化を悟った孝治は、声を大にして叫んだ。
「友美ぃーーっ! おれから離れて逃げるっちゃあーーっ!」
孝治の左手を握って走っている友美が、驚いた顔を向けた。
「ええっ! どげんしてぇ!」
孝治は振り向きもせずに答えた。ただ真正面だけを見て。
「おれかてもうすぐ走れんようなるっちゃけぇ、友美だけでも逃げやぁーーっ!」
「そげなん嫌ばぁーーい!」
友美の拒絶など、聞かない振り。孝治は自分の頭上を浮遊飛行している涼子にも叫んだ。
「おいっ! 涼子ぉーーっ!」
これだけの大声を出せる自分を見れば、まだまだ体力が余っていそうな感じを自覚するほどに。
「涼子はこんヒナば、ポルターガイストで持ってってやぁーーっ!」
孝治はひなワシが入っている小物袋を、右手で高く持ち上げた。これらの行動はすべて、全力疾走の真っ最中。ところが孝治の願いに対する涼子の対応の仕方は、先ほどまでとは打って変わっており、小憎らしいほどあっさりとした態度になっていた。
『そげんことまでせんだっちゃ、ええみたいっちゃねぇ♐』
場合が場合だけに、孝治は本気で激怒した。
「うわっち! 人が死ぬ気で頼みよんのに、そげな言い方はなかろうがぁーーっ!」
それでも涼子は、終始冷静。生死の境とやらをとっくに超越している涼子は、返事を戻す代わりに浮遊で飛びながら、空の一点を右手で指差した。
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