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『剣遊記[』

第五章 フェニックス作戦第一号。

     (18)

 サイクロプスは執拗に、孝治たちをズガァァァァァンンッッと追い駆け続けた。

 

 いったいいかなる理由と執念があって、彼は人を襲うのか。そこは言葉を通わせることのできない者同士の悲しさ。彼以外の誰にも、わかろうはずはなかった。

 

 ただひとつ言えることは、それは追われる側にとって、多大な迷惑なだけの話である――のひと言。

 

「うわっちぃーーっ! ええ加減にしちゃってやぁーーっ!」

 

 いくら怪物相手に叫んだところで、それが無駄で徒労はわかっていた。それでも孝治は、とにかく逃げながらでわめき続けた。

 

 もはや恥だ外聞がどうのこうのだと、言っている場合ではないのだ。しかも、サイクロプスの一番間近にいたのが運の尽き。左手でひなワシの入った袋をかかえ、右手で再び友美の左手を握り直して、孝治は持ち前の体力を全開にして駆けまくった。

 

 ところがグボガァァァァァァァァァッッ! ――と吼えるサイクロプスは、足元に獲物さえいれば特に選り好みなど、初めっから頭には無いようだ。右手に持つ大木を軽々と持ち上げては振り下ろし、それが折れたらすぐに別の木を引っこ抜き、また新しい棍棒を手にして暴れまくる。これの繰り返し。

 

 もしかすると彼には人を襲う理由など、もともとから持ち合わせてはいないのかもしれない。とにかく弱い者を追い駆け回すのが、楽しくて仕方がない。そんな人間界と、まるで変わらない雰囲気さえ感じさせてくれた。


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