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『剣遊記[』

第五章 フェニックス作戦第一号。

     (16)

「うわっち!」

 

 孝治はその声に応える暇がなかった。なぜならこちらが気のつくよりも早く、三枝子がひなワシの入った袋を投げ渡してきたからだ。

 

「うわっち! えっ、お、おい!」

 

 なにがなんだか、全然わからないまま。それでも孝治は、我ながら器用にも、友美を握っていない左手のほうで、袋をパッとナイスキャッチした。とっさの判断による反射的行動とはいえ、これはこれで、世の中から誉められても良い早業であろう。

 

「あとは頼んだばぁーーい!」

 

 三枝子はそのまま、全速力で走り去った。あとに残された孝治は、友美といっしょに、口をポカンとさせるだけ。

 

 それからようやく我に帰って、三枝子に派手な怒鳴り声をぶち撒けた。

 

「な、な、なんねこれぇーーっ!」

 

 まるで無責任の極み。そんな振る舞いを受けた孝治であった。しかし今は、彼女を追い駆けるどころではなかった。

 

「孝治っ! サイクロプスがこっち来よるっちゃあ!」

 

「うわっちぃーーっ!」

 

 友美の悲鳴で再度我を取り戻し、投げ渡されたひなワシの入った袋を両手で胸元にかかえ、これまた『火事場の馬鹿力』的超全速力で駆け出すのみ。もはや友美には、自力で走ってもらうしかない。

 

『早くぅ! あいつ孝治ば狙ろうちょうけねぇーーっ!』

 

「うわぁーーっちぃーーっ!」

 

涼子が追い討ちをかけてくれるかのように、さらに孝治を急き立てた。


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