『剣遊記[』 第五章 フェニックス作戦第一号。 (13) グァぉぁぁぁぁぁぁぁッ!
まるで雷鳴を思わせるような雄叫び。同時にサイクロプスが右手の大木を頭上に持ち上げ、力任せに振り落とした。
ズガガァァァァァァァァァンッッと、想像を絶する大怪力! 地面が大きくえぐられ、土砂煙りが周辺を、瞬く間にして覆い尽くすほどに。
「うわっちぃーーっ!」
バラバラと岩石や土くれが頭から降り注ぐ中、孝治たちは大慌てで、サイクロプスの前から逃げ出した。
「トクのバカチンがぁーーっ! なしてあげた化けモンば連れてくるとかぁーーっ!」
逃げながらで清美が、徳力の頭をポカポカと殴りまくり。
「だ、だけん、何度も言いよんでしょ! 水汲みば行ったらいきなりサイクロプスと出くわして、とにかくいきなり追っ駆けてきたとですよぉーーっ!」
徳力の言い訳を、孝治もなんとなくわかるような気で耳に入れた。
「まっ、それもそうっちゃね♋」
それと言うのもサイクロプスにはなんの恨みがあるのか。人を見つけたらやたらと追い回す、実に陰険で迷惑な習性があるのだ。
別に人を食うわけでもないのに。
恐らく今回の場合も、偶然徳力と遭遇したばかりに、人をいじめたい衝動に火が点いたのであろう。
なんにしても、世界の人類一同が、一番顔を会わせたくない怪物に違いない。
「そぎゃんやったらあげな野郎なんざ、あたいらんとこに連れてくんじゃなかぁーーっ! どっかちゃう方向に行っちまえばよかろうがぁーーっ!」
無茶な泣き言ばかりを吼える清美であるが、言われっぱなしである徳力も、当然泣き顔となっていた。
「そげなぁーーっ! ボクかて助けがほしかとですよぉーーっ!」
これでも誇り高きドワーフの戦士なのかと言いたくなるほどに。
実際どのような怪物にしても、最初から存在がわかっていれば、それなりに対策が立てられるもの。しかし、予測もできずに奇襲攻撃でも喰らったら、もうお手上げ。持ち前の剣と魔術で戦う余裕もなく、ただひたすらに逃走するしかない。
「友美ぃーーっ! おれん手ば離すんやなかちゃぞぉ!」
「うん!」
孝治も友美の右手を握り、必死の思いで走り続けた。その横に並んで同じ速力で浮遊しながら、涼子が茶化し気味に言ってくれる。
『良かったっちゃねぇ♡ これで孝治の男疑惑がうやむやになったっちゃね♡』
冒険が最高潮を迎えると、胸の高揚感が嫌でも高まる(もはや生死は関係なし)、涼子らしいセリフだった。だけど生身である孝治と友美は、絶体の絶命状態なのだ。
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