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『剣遊記[』

第五章 フェニックス作戦第一号。

     (10)

 その三枝子は、孝治の闖入的会話への参加で、少しだけ安堵のような表情を浮かべていた。

 

 恐らくこれで、話が少しでも横道にそれる結果を期待したのだろう。ところがどっこい、清美はさらに胡散臭げな目付きで三枝子と孝治の両方をにらみつけ、実にとんでもない発言をしてくれた。

 

「これは孝治にゃ関係なかろうが! それとも早よ血ば飲んで、男に戻りたかぁ〜〜ってぇのかい?」

 

「うわっち!」

 

「えっ? 男?」

 

 清美の暴露発言で三枝子が瞳を丸くして、孝治に顔を向けた。

 

「それって、どげんこと?」

 

(うわっち……ヤバかぁ!)

 

 孝治は一気に、顔面が青ざめる思いとなった。

 

 思えば自分の正体は、今現在も三枝子には秘密にしてあったのだ。しかも、痴漢などの女の敵を異常とも言えるほどに敵視――ある意味当然――している三枝子である。そんな彼女といっしょに温泉に入ったなどともしもバレたら、孝治はそれこそ半殺し――いやいや三分の二殺しくらいにはされるかも。

 

「ち、違うっちゃよ! 孝治には実は持病があると!」

 

 崖っぷちとなった孝治の危機に、友美が慌てて駆けつけてくれた。さすがは長年のパートナーであった。

 

「なんね、それ?」

 

 もちろん間に合わせの言い訳など、今の三枝子には通じそうになかった。

 

「なんの持病があんのか、それば教えて!」

 

「そ、それはぁ……☁」

 

 今度は友美までもが、追い詰められる窮地に陥った。しかしそれでも、そもそも孝治をそそのかした立場上、ここで逃げるわけにはいかないのだろう。そこで臨機応変的に持ち出したらしい回答が、これだった。

 

「孝治はイボ痔なんばい! それも悪性のやね! やけんそんば治すために、フェニックスん血がほしかったとよ!」

 

 ドテッと引っくりコケた者は、無論孝治であった。

 

 ついでに声に出して言えるものなら、次のように言い返してやりたかった。

 

(言うに事欠いて、イボ痔はなかっちゃろうも! イボ痔はよぉ! ……まあ、確かに性転換の話よか、インパクトが強烈かもしれんけどやねぇ☠☻)


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