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『剣遊記[』

第二章 フェニックス伝説、その前日。

     (9)

「まあ!」

 

 三枝子が驚きの顔で瞳を見張った。その理由は清美の全身にも、同じような傷やアザがたくさんあったからだ。おまけにこの場にいる女性戦士三人(?)の中で、なぜか孝治のみ一番綺麗な体でいることが、なんだかとても皮肉に感じられるほどに。

 

 その清美が体の前後を、三枝子に見せながらで言った。

 

「まっ、お互いとつけむにゃあ(熊本弁で『とんでもない』)ちっちぇーころから鍛われたクチらしいばいねぇ☻ おかげであたいの体は見てんとおり、傷だらけばい♠ 花の生娘やっちゅうのにねぇ☻」

 

「ぷっ!」

 

 孝治は思わず噴き出した。だけどすぐに清美からギロッとにらまれ、慌ててプイっと背中を向けた。ついでに友美からも、左手の肘でこづかれたりもした。

 

「孝治ったらぁ、空気ば読みんしゃいよぉ☢」

 

 一方で三枝子は、どこかため息混じりの感じでつぶやいていた。

 

「そうたいねぇ……あたしも五歳んときからやったけねぇ☁ 死んだお父さんの薦めで、村の格闘技の師匠に弟子入りしたんは✈」

 

 三枝子は外見は勇ましくても、中身はやはり、ふつうの少女のようだった。この様子を黙ってジッと見ていた友美が、孝治にこっそりとささやいた。

 

「なんやねぇ☞ 清美さんも三枝子さんも、戦士が本職になっちょうとやけど、ほんとはどちらもふつうのお嬢ちゃんでいたかったみたいちゃねぇ♣」

 

「……おれにも、まあわかるっちゃね☂」

 

 孝治はそっとしたうなずきで友美に返した。

 

 清美と三枝子には背中を向け、なるべくふたりの裸を見ないよう、孝治は心掛けていた。それでもしっかりと、ふたりの会話は、孝治の耳にも届いていた。

 

「そうっちゃねぇ☁ 繰り返すっちゃけど、おれにもなんとのうわかるような気がするっちゃよ✍ まあ、清美んほうは本職ってよか天職って感じやけどね✌」

 

 そこへ――だった。すぐさま涼子が突っ込んできた。

 

『確かに孝治ならわかるっちゃよねぇ☆ だってふつうの男ん子に戻れんのとおんなじようなもんやけ、こん話は✎』

 

「うわっち!」

 

 いつもどおりの痛い所を突かれ、孝治は思わず湯船からバシャッと立ち上がった。

 

「孝治、どぎゃんしたんね?」

 

「あっ……い、いや、な、なんでんなか……♋」

 

 すぐに清美から目を付けられ、恥ずかしい思いが再燃。孝治は再び、肩まで湯に浸かり直した。このとき豪傑女戦士の瞳に、またもや意地悪の光が差した様子を、孝治は当然にして見逃さなかった。

 

(またヤバかこつ、なるっちゃろうねぇ〜〜☠)


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