『剣遊記[』 第二章 フェニックス伝説、その前日。 (10) 「そぎゃん言うたらやねぇ〜〜☺」
ところが清美は孝治ではなく、三枝子のほうに再度話しかけていた。
「ありゃりゃ♋」
孝治は思わず、湯の中で転びかけた。そんな孝治には瞳も向けないまま、清美は話を続けた。
「あたいもそうなんやけどねぇ、あんたも修行んときは同僚の野郎どもといっしょやったんやろ☞ で、そん中にやおないスケベ野郎っとか、おらんかったね?」
「なんねそれ?」
いきなり方向転換のような感じである清美の問いかけに、端で聞いている孝治は、なんだか変な空気を感じ取った。
(清美んやつ、またなんか変なこと言いようばい☢)
そこへ友美が左の耳に、そっと耳打ちをしてくれた。
「わたし、徳さんから聞いたことあるっちゃよ✍ 清美さんと徳さん、戦士学校の同級生で、ちっちゃいころからの幼馴染みやってね☎」
「へえ、そうやったと☚」
孝治も実は、その話は聞いた覚えがあった。でもここは、友美に話を合わせてやった。
「ふぅ〜ん、ふたりはそげん古うからの付き合いねぇ……でも人間よか二倍な長寿なドワーフがどげんして同期入学やったかは、あとで徳さんに訊くとしてやねぇ、それがなして、今は親分子分の関係なんやろうねぇ?」
「さあ? そん理由までは、まだ訊いとらんちゃけどね☁」
清美と徳力の間には、まだまだ計り知れない、なにかの謎がありそうな雰囲気。それを孝治はもちろんのこと、友美も同じ風に感じているようであった。
その問題はさて置き、三枝子が清美の問いに答えていた。
「いいえ✄ あたしん同級生には、そげな人はおらんかったですよ✈ なんと言っても師匠が厳格なお人やったんやけ♦ ただ本職の格闘士になってから、いやらしい男の格闘士と会ったりはしたとですけどねぇ☢」
これに清美が、興味深げに身を乗り出した。
「ほぉ、で、そいつと戦ったと?」
なんの意図があるかはわからないが、清美は妙に誘導的な訊き方をしていた。するとおだやかだった三枝子の表情に、だんだんと興奮の色合いがにじんできたではないか。
「もちろん戦ったとですよ! そいつ、試合ん前にあたしん尻ば触ったり卑猥{ひわい}なこと言ったりするもんやから、こちらから試合ば申し込んで、闘技場でボコボコにしばいてやったとです!」
「ぶぅーーっ!」
清美の背中越しで三枝子の話を聞いた孝治は、今度は違う意味で噴き出した。それでもなお、三枝子の可憐(過激)な思い出話(?)は終わらなかった。
「他にも街でチンピラにからまれそうになったときも、そいつの○○○○ば思いっきり蹴って、潰してやったこともあるとです! あたしって、自分でなしてかわからんとやけど、女の敵ば見たら、すっごい闘志が湧く性質らしかなんですよねぇ☀」
「そうけぇ〜〜、わかるわかるばい☠」
このとき三枝子のセリフに相槌を打ちながらうしろに振り返った清美の目線は、なぜか横目気味で孝治へと向いていた。
「そぎゃん言うたら、すぐそばにおるかもしれんばいねぇ〜〜☻ 例えば女湯ば覗く、出歯亀野郎っとかねぇ☛」
「もう駄目っ! そげな話ば聞いたらぁ!」
お終いの『出歯亀』なる単語が、なぜか決定打となったらしい。三枝子の興奮は、疑問符を付けたいほどの最高潮に達していた。おまけにそのままの勢いで、湯船からバシャッと立ち上がり、格闘の構えまでも見せつける有様。
今さら表現するまでもないが、究極のあらわ過ぎる格好で。
「そげな痴漢野郎は、たとえ地の果てまでも追っ駆けて、地獄の成敗ばくれてやるんやからぁ! やけんもしこん場で発見したら、即半殺し……やなか五百パーセントの全殺しにしちゃるばい!」
「うわっちぃ……💀」
孝治は顔面に、何本もの縦線が浮かぶ思いとなった。また縦線の発生原因を知っているくせに、清美が意地悪く含み笑いを見せつけながら、ぬけぬけと言ってくれた。
「どぎゃんしたや、孝治、なんか顔色悪かばい☻☠」
再びわざわざ、うしろへと振り返って。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |