『剣遊記[』 第二章 フェニックス伝説、その前日。 (6) (これとおんなじことって……確かにずっと前にも……っていうか、いっつもやりようことっちゃねぇ☠)
孝治は緊急事態の最中で、ふと以前の記憶を回想した。このややこしい問題の根っこは、同じ展開を何回繰り返したところで、一向に懲りない荒生田先輩にあるだろう。
(おんなじことの繰り返しやったら……またおんなじ作戦ばやってみよっかね☻)
思い立ったが吉日、見ればここはすでに、宿屋の縁側通路。あっと言う間に荒生田に引っ張られてここまで来ていたわけだが、中庭にはおあつらえ向きの物があった。
(あれたい♡)
孝治は一見観念しているような声を出し、荒生田にささやきかけた。
「先輩☻」
「おっ? なんね?」
荒生田はなんの疑いも持たないような顔で振り向いた。そのサングラス😎顔を見て『しめた!』と思いつつ、孝治はささやきを続けた。
「ここはもう、わっかりました☹ おれ、先輩といっしょに温泉に入りますけ☹ やけんこん手ば離してもろうてもよかですか?」
「ゆおーーっし! そうけそうけ!」
相手が女性ともなれば、疑う心理がまったくない荒生田であった(孝治も含む。例外清美)。すぐに孝治の要望そのまま、握っていた左手を、そっと離してくれた。
これも恒例。
この瞬間を、孝治は狙った。
「先輩、ありがとさん♡」
「ぐでばっ!」
孝治の右拳{こぶし}によるパンチが、ボグッッと荒生田の下っ腹に決まった。
もともと隙だらけだったとはいえ、荒生田はあっさりと昏倒。そのまま白目を剥いてぶっ倒れた。これでも本当に戦士なのであろうか?
「他愛なかっちゃねぇ☠」
自分で張り倒しておきながら、孝治は情けない気持ちでいっぱいだった。それから額の汗をハンカチで拭き取り、大の字となって廊下に倒れている荒生田を見下ろした。そこへ黙って成り行きを見ていた友美と涼子が駆けつけた。
「やったっちゃねぇ……っち言いたかとこなんやけど、わたし、これとおんなじ状況ば、ずっと前にも見た覚えあるっちゃよ☢ そんときとまったくおんなじ、しばき倒し方やない♐」
『右に同じっちゃね✍』
「それば言わんといてや♋ おれかてしょーもない気持ちなんやけ☂」
友美と涼子からの鋭い指摘で、孝治の情けない思いは、さらに強烈となった。
「でもこげな場合、学習能力のなか先輩が、いっちゃん悪かっちゃけね! おれはいっちょも新しい方法ばしちょらんのやけ☠」
『確かにそうっちゃねぇ✄ でも、これからもこげなワンパターンが延々と続くとやろっか?』
「言わんでや☠ 背筋が寒うなるけ☃」
涼子の縁起でもない未来予測に、孝治は思わず身震いを繰り返した。
「で、こげんなったらワンパターンついでやけ☻」
孝治は倒れている荒生田の両足を両手で掴み上げ、廊下の上を引きずった。
意識のない荒生田の体は、とても重たかった。
それから地面にドサッと下ろし、中庭にある大きな御影石の所まで引っ張っていった。
仮にも先輩ともあろう者を、完全に物扱いにして。
「?」
『?』
とにかく変に思っている顔の友美と涼子が見ている前だった。いったい、いつの間にどこで調達したかの過程を説明しないまま、孝治は太めの鎖を持ち出した。使用目的はもちろん、荒生田を庭石に縛り付けるためである。
「これでよかっちゃね♥ ずっと前の経験やったら、木に縛ったつもりが根っこの部分が腐っちょって、先輩すぐに逆襲してきたけねぇ☠」
「そげなこともあったっちゃねぇ✍」
友美も当時の状況を、さらにくわしく思い出した様子でいた。そのついで、もうひと言、グサリとも言ってくれた。
「でも今回は……もっと過激ばい☢」
今のセリフは聞かなかった振りをして、孝治は晴れやかになった気持ちで、友美と涼子に言った。
「さっ、これで邪魔者は消えたっちゃけ、おれたちも温泉に入るばい☀」
これかて、ずっと前に言うたセリフとおんなじっちゃねぇ――と、考えつつ。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |