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『剣遊記[』

第二章 フェニックス伝説、その前日。

     (5)

「おお、もうそぎゃんひま(熊本弁で『時間』)になるとね★」

 

 仲居さんの言葉を受け、清美が真っ先に腰を上げた。ところが続いて、酔っているはずの荒生田までが、ピョンとまるで、バネ仕掛けのように立ち上がったではないか。

 

「さっ、オレたちも入るっちゃね☺ 孝治もオレといっしょやけ♡」

 

「うわっち!」

 

 荒生田は素早く、孝治の左手を自分の両手で勝手に握り締めた。

 

「ちょ、ちょい待ち! なして先輩がおれん手ば取るっちゃね!」

 

 慌てる孝治に、荒生田がぬけぬけとほざいてくれた。

 

「まあ、そげん嫌がらんでもよかっちゃろ☆ 先輩と後輩の裸の付き合いっちゅうんも、たまにはええもんやけ♡」

 

「そんセリフ、ずっと前にも言うたことあったやろうも!」

 

「そんじゃ、あたいら先行っとうけね☻」

 

 薄情にも清美たちは、揉めている孝治と荒生田を、さっさと置き去り。本当に先に浴場へ行ってしまった。

 

 さすがに友美と涼子は残ってくれているが、それにしても冷たい仕打ちが甚{はなは}だしかった。

 

「じゃ、オレたちも行くっちゃね✈」

 

「うわっち!」

 

 荒生田も早速、孝治の左手を右手でギュッと握ったまま、浴場へ向かおうとした。

 

 行く先は、当然男湯。

 

 裕志と徳力も、とっくに腰を上げたあと。孝治もこのふたりだけだったら、遠慮なしで男湯に入れる(?)のだが。

 

 やっぱりそれもまずいか。


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