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『剣遊記[』

第二章 フェニックス伝説、その前日。

     (4)

 宿屋の一室に、全員が集結。みんなで手分けをして集めた情報の整理を行なった。

 

 まずは清美から。

 

「あたいらが訊いた話によるとやねぇ✍ フェニックスはしょっちゅう爆発しよう中岳ば避けて、いっちゃん東側にある根子岳に棲んじょるらしかばい☟ これは村の古老から聞いた話ばってんが☹」

 

「そん情報っち、ほんなこつ正しかとね?」

 

 疑問の眼差しのつもりで、孝治は慎重の気持ちで尋ねてみた。すると清美は左隣りで座布団に座っている徳力の右手を引っ張り、開き直り気味で返してきた。

 

「文句ばあるとやったらトクに言えばよかんごつあろうも♨ これはトクが集めた話なんやけな☚」

 

「は、はい! 正しかっ……ち思いますばい!」

 

 名指しをされた徳力が、こちらは慌て気味で頭をペコペコとさせた。本来ドワーフは誇り高き種族なのだが、こいつに限っては、例外と言うしかなさそうだ。

 

 一行はそれぞれ分担をして、阿蘇のあちこちでフェニックスに関する情報を集めていた。従って徳力の組む相手は、当然親分格の清美であった。そんな話の流れであるからして大方の予測どおり、聞き込みを行なう者は、徳力ひとりの仕事。清美はそのうしろで、偉そうに両腕を組んでふんぞり返っているだけだった――らしい。

 

 無論そのような情景は、孝治の考えどおりであったけど。

 

「わかったっちゃよ♤♢ 生真面目な徳さんが集めた情報なんやけ、ほぼ間違いなか……っち思うっちゃよ♐」

 

「そぎゃん言い方っち、なんか引っ掛かるんばいねぇ〜〜♨ なんかあたいが生真面目やなかみたいばい」

 

「ごほん!」

 

 わざとらしい咳払いをひとつ。孝治はこれで清美の厭味を、なんとかかわそうとした。

 

 それにしても、きちんと情報を持って帰っただけでも、清美と徳力のコンビは偉い――と、孝治は考えた。それに孝治たちも情報収集で、フェニックスにかなり近い線まで調べることができたのだ。もちろん三枝子も単独ながら、多くの成果を上げていた。もっとも彼女の場合、母の病気という愚図愚図できない事情が差し迫っている状況なので、それも当然なのであろう。

 

「でもやねぇ〜〜☢」

 

 孝治は横目になって、話し合いの場から外れている、サングラス😎の人物に焦点を当てた。

 

 その人物は例によって、話にはちっとも加わろうとはしなかった。それよりも地元の銘酒に、舌鼓を打つばかりなのだ。

 

「ゆおーーっし! 美味{うま}かっちゃねぇ、こん酒はぁ♡」

 

 孝治はその人物に向かって、ひと言苦言を献上してやった。

 

「先輩もちったあ情報ばつかんだとですか? 帰ってきたときゃもう、グデングデンに酔っぱらっちょってからにぃ☠」

 

「ほんなこつ、ごめん!」

 

 サングラスの人物――荒生田に代わって、後輩の裕志が両手を合わせ、孝治たちに頭を下げた。

 

「ぼくはそのぉ……先輩にちゃんとフェニックスについて訊いて回ろうっち言うたとですけどぉ……阿蘇には美人が多かっち言うて……そのぉ……道の女ん子に声ばかけてばっかしで……☁」

 

「あたいは初めっから、荒生田なんぞにはなんの期待もしちょらんかったけね☠ そいつはそけうっちょっけて(熊本弁で『ほっとく』)よかばい✄」

 

 こちらも荒生田との付き合いが長い清美の言葉は、真に辛辣だった。おまけに孝治も、毒舌ならば負けていなかった。

 

「先輩が裕志ん言うこつ、聞くはずなかっちゃろうが☠ それよかさっさと見切りばつけて、三枝子さんみたいに単独行動したほうがよっぽど良かっちゃやなか?」

 

「うん……今にして思えば、そうかもね☃」

 

 荒生田と組む成り行きになった裕志は、けっきょく先輩のわがままに振り回された格好だった。

 

 もちろん結果は、なんの成果もなし。これなら孝治の言ったとおり、ひとりで情報を集めたほうが、よほど仲間に貢献できていたはずである。

 

 今さら後の祭りの話なのだが。

 

「と、とにかく、皆さんが集めてくれた情報ば総合すれば、フェニックスは根子岳に棲んでる可能性がいっちゃん高いっち思います☆ それであしたは根子岳に行きたいっち思いますばってん、皆さんもそれでよかですか?」

 

 すっかり恐縮気味の裕志に同情したのか。なんだか気をつかっている感じ。三枝子が情報整理の締め言葉を言ってくれた。

 

「異議なか!」

 

「あたしも!」

 

 孝治、友美を皮切りに、清美、裕志、徳力と続いた。

 

「あたいもそれでよか☀」

 

「うん……ぼくも☁」

 

「はい、ボクもです★」

 

 これにて全員(ひとり除く)の意見が一致。そこへ、まるでその機会を見計らっていたかのようだった。宿屋の仲居さんが襖{ふすま}を開けて、部屋の中に入ってきた。

 

「お客さん方、温泉に入るんやったら、早よしてくれませんかいのぉ✈ もう夜も遅かけん、風呂場ば閉めんといけんし、お湯がたぎるかもしれんけのぉ☛」


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