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『剣遊記[』

第二章 フェニックス伝説、その前日。

     (2)

 このような、列のうしろで繰り広げられている騒動には、一切我関せず。友美は三枝子に、いろいろと尋ねていた。また涼子も、いつもどおりの騒ぎには飽き飽きしているので、友美のほうにピッタリと寄り添い中。もちろん三枝子には、幽霊の姿は見えていないだろうけど。

 

「ねえ、ちょっと訊いてもよかですか?」

 

「はい、なんでも訊いてください☺」

 

 勇ましい格好には似合わず、三枝子の口調は初対面のときと変わらず、お淑やかでやわらかな物腰だった。そのためか友美は、ほとんど安心しているような気持ちで話しかけてみた。

 

「今……こげなこと訊いていいのかどうかわからんとですけどぉ……どげんしても気になったもんですけ✍ そのぉ……三枝子さんがフェニックス探しばしとう間は、誰がお母さんの看病ばしてくれとうとですか?」

 

 友美自身、故郷に両親を置いての都会暮らしの身――なので、三枝子の母の病が、とても気になって仕方がなかったのだ。ところが友美の問いに、女格闘士は不自然すぎるほどの明るさで答えてくれた。

 

「ああ、それなら大丈夫ですけん☺ あたしん代わりに村の人たちみんなで看病ばしてくれよりますと♡」

 

『ふぅ〜ん、三枝子さんっち、けっこう人望あるっちゃねぇ〜〜♠』

 

 友美と三枝子の頭上にて会話を聞いていた涼子が、軽く独り言的に感心していた。そのついでか。誰も訊いていないのに、勝手な推測までしていた。

 

『あたしが思うに三枝子さんっち、競技大会の優勝者で村の名誉なもんやけ、家族そろって大事にされちょう……って感じやろっか✍』

 

 無論友美の耳に、涼子のつぶやきは入っていた。けれど、三枝子が見ている前では涼子に突っ込めないので、そのまま幽霊娘の真下で会話を続行した。

 

「そげんねぇ♪ 村ん人たちが守ってくれるんやったら安心ちゃね☀ でも、三枝子さんのお父さんは?」

 

「お父さんはあたしが小さいときに死んだと、山で凶暴なヘルハウンド{地獄の猟犬}に襲われたもんやけ……☂」

 

「あっ! ごめんなさい!」

 

 友美にそのつもりはなかった。だけどつい、三枝子にとっての悲しい記憶を思い出させる結果となったかも。実際に三枝子の口調は前半と違って、明らかに暗く沈んでいたから。

 

「本っ当にごめんなさい! わたし、三枝子さんば傷付けるつもりなんてなかっちゃけ!」

 

「いいとよ☻ 友美ちゃん☻」

 

 一生懸命頭を下げる友美に、三枝子が優しく微笑みかけた。

 

「お父さんは死んでしもうたんやけど、あたしが格闘士になった理由は、本職の格闘士やったお父さんの意思ば継いだからやの♐ お父さんはほんとは男ん子がほしかったそうやけ、それなんに産まれたんがあたしやったし、おまけにひとりっ娘{こ}なもんやからずいぶん可愛がってくれたんやけど、本心ではがっかりやったみたいやったねぇ☁ やけんお父さんが死んだあと、あたしは本気ば出して格闘士になるっち決めたとよ✈」

 

 三枝子の長いセリフは、本当に純粋で優しげだった。それだけに言葉のひと言ひと言がズキズキと、友美の心臓に突き刺さるのだ。その様子を上から見ている涼子もひと言。

 

『三枝子さん、“いいとよ”なんち言いながら、友美ちゃんが訊いてもなか父さんの思い出話ばっかし、延々と続けようやない☢ 案外三枝子さんっち、ほんとは性格きついんが隠れとうのかもしれんちゃねぇ☻』


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