『剣遊記[』 第二章 フェニックス伝説、その前日。 (11) 孝治の現在の心境は、次のような思いとなっていた。
(ど、どげんしよ! 三枝子さん、おれの正体(元男)ば知らんのやけぇ……☠)
実際の話、孝治は三枝子に、自分の素情を、まだ教えていなかった。
これはもともと、いつか話せばいいことっちゃね――と思って、特に気にもしていなかった理由による。
だが、今となっては、もう手遅れ。三枝子の話しっぷりから予想をして、もしも元男性だとバレて(?)しまえば、いったいどのような制裁を受けることやら、わかったものではない。
それにしても、孝治を窮地に陥れる展開へと導いた、清美の猛烈なる性悪ぶり。三枝子が極端なスケベ野郎嫌いだったとは、当の清美も今の今まで、たぶん知らなかったはずなのに。
(いや……今までたくさん、この世の地獄ば見てきたベテラン戦士の勘かもしれんちゃねぇ……☠)
孝治はそのように邪推をした。根拠はかなり薄いが、有り得ない話ではなさそうだ。
もっともこれ以上の推察は後回しにして、この場は三十六景逃げるにしかず。
「おれ……やなか! わたし、先に上がりますわね、おほほほほほ♡」
「おっ、もう出るんけ? もうちっと温泉ば味わっていかんね☻」
清美の止めようとする声を聞かない振りして、孝治は湯船から、ジャバッと立ち上がった。このときドォーーン ドォーーンと、露天風呂の塀の外から、なにやら大きな地響きが聞こえてきた。
「うわっち?」
「おっ? なんね?」
「地震やろっか?」
湯船に波紋が生じるほどの震動で、さすがの清美と三枝子も動揺気味となっていた。
「ま、まさかねぇ……♋」
これとおんなじ経験が、前にもいっぺんあったような気がするっちゃ。孝治は真っ裸のまんま、湯船の中で立ち尽くした。
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