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『剣遊記閑話休題編U』

第一章  ヴァンパイア娘、初めてのおつかい。

     (6)

「……まあ、今は季節外れで湯治の客もほどほどじゃけん、空{あ}いとう部屋ならほうらつかね⛱ では祐一{ゆういち}、むぞらしかお嬢しゃんば案内してはいよ✈」

 

「はい、お父しゃん☀」

 

「えっ? おとさん?」

 

 清滝氏に返事を戻した者は、水晶亭主人の左横に初めから立っている、執事ではないかと勝手に考えていた好青年であった。これに彩乃は、瞳が思わず点の思い。

 

(あってまぁーーっ! わたしっち、こん店の後継ぎん人ば、執事なんち思いよったんやねぇーーっ☠)

 

 そんな顔面真っ赤の面持ちで、彩乃は改めて好青年――祐一に瞳を向けた。そこでやはり、先ほど血縁関係で推測をしたとおり、祐一とやらは確かに、父親の清滝氏によく似ていた。彼が店主の血を継いだ息子であることに、ほぼ間違いはなさそうだ。

 

「ではお嬢しゃん、僕がお部屋までご案内いたしますばい♠」

 

 その祐一の、とても紳士的な口調と仕草。ある意味純情(?)な彩乃の乙女心が、簡単に白旗を揚げることとなった。

 

「は、はい……よろひゅうお願いひまぁ〜〜っしゅぅ……♡」

 

 本来ならば、ヴァンパイアのほうが人間を妖しい魅力で虜にする成り行きのはず。だけれど、現在の彩乃は、まるで逆の立場にいた。

 

 とにかく祐一の甘くて端正な顔立ちと、耳に心地よいしゃべり方。これらに酔いしれて、彩乃は身も心もすっかりメロメロ――と称しても、決して間違いのない状態にあった。


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