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『剣遊記閑話休題編U』

第一章  ヴァンパイア娘、初めてのおつかい。

     (4)

 初めはコウモリのままで、彩乃は街の大通りを飛び続けた。

 

 歩いて探し回るよりも、このほうが楽チンだとの発想。ところがさすがに、黒川は温泉の街らしかった。行き交う通行人は皆、湯治や療養で訪れていると思われる旅人がほとんどであった。

 

 それもかなりの大人数。そんな風でにぎわっている中を、日本の野生では生息しないはずの大コウモリが飛び回っても、誰もが少し視線を配るだけ。まるで関心を持たれていなかった。もっともこの世界自体、人間と亜人間{デミ・ヒューマン}がなんの問題もなく(一部例外を除く)ふつうに同居をしているのだから、特に珍しい光景でもないわけだが。

 

(あった! ここばい♡)

 

 ひとしきり街の中を飛んだコウモリ――彩乃の前に、周囲の建物を、まるで睥睨するかのようだった。物凄く目立つ、ひと際高めの三階建て建造物が現われた。

 

 ここでようやく、彩乃は自分の姿を、コウモリからメイド風給仕の制服を着た少女へ、パッと還元させた。それから両足を道路に着地させるなり、彩乃は大型木造建造物の正面入り口に飛び込んだ。

 

 そこでさらに、元気いっぱいな大声を、店内に向けて響かせた。

 

「ごめんくださぁーーい! 北九州の未来亭からのおつかいのモンばってぇーーん!」


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