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『剣遊記]』

第五章 必殺! お仕置き人参上。

     (9)

 可奈、美香組と同じ戦法を、友美、涼子組も実践していた。

 

「むぅわたんくあーーっ!」

 

「鬼さん、こっちばい♪」

 

 懸命に(と言うか愉快そうに)走って逃げる友美のあとから、本当に鬼の形相で、五人の野郎どもが追い駆けていた。

 

 いくら魔力が封じられたところで、基本的な体力そのものに差し支えはなし。友美はこの調子でわざと自分の姿を相手に見せつけ、敵の面々を挑発していた。

 

「手の鳴るほうやけねぇ♫♬」

 

 友美はこのまま、五人を屋敷から遠く離れた森の奥まで誘導した。自分のすぐ右横に、幽霊の涼子(空中浮遊で伴走)を伴いながらで。

 

『そろそろよかっちゃろっか?』

 

 涼子が友美に声をかけたタイミングは、すでに屋敷が見えなくなるほどの地点に来てからだった。ここは周辺を雑木が取り囲み、満月どころか灯りがひとつもない、完全なる夜の闇の中となっていた。

 

「うん、いいみたいっちゃね♡」

 

 友美も周辺を見回して、今が頃合いと判断した。それから軽めに、涼子に向けてうなずいた。

 

『そんじゃ♡』

 

 友美の了承を得て、涼子が思念を集中させた。つまり涼子の得意技である、ポルターガイストの発動だった。

 

「な、なんや?」

 

 急に森の空気が一変した状態を感じたようだ。友美を追う五人が、森の中でピタッと足を停めた。

 

 風もないのに樹木が騒ぎ、木の葉がパラパラと、樹上から何百枚も落ちてきた。

 

「じ、地震か?」

 

 追っ手のひとりがトンチンカンを言い出すが、実際の事態は、もっと性質の悪い話だった。それはこの異常現象が、明らかに五人だけを狙い撃ちにしているからだ。

 

「あひぃーーっ!」

 

 突然、の大枝が横殴りに掃われ、驚く間もなく、バチンッとふたりの男を弾き飛ばした。

 

「げえっ! こ、こりゃなんじゃあーーっ!」

 

 まるで信じられない災厄に見舞われた仲間を案じる暇もなし。今度は地面の落ち葉や枯れ枝などが、一斉に空中へと舞い上がる。それが残った三人の周りを、なんと竜巻のように旋回しまくった。

 

「ぐわほっ!」

 

「ごぉほっ!」

 

 これではまったく目が開けられない。だからといって口を開けば、そこに葉っぱや石ころが飛び込む始末。

 

「涼子ぉ! もういいっちゃよぉ!」

 

 友美が止めるまでもなく、三人は呆気なく意識を喪失していた。それも五人が五人とも全員、枯れ葉の中に体が埋まった状態。これではほとんど、遺棄死体も同然と言えた。

 

 念のため、一応生きているけれど。

 

『きゃはっ♡ ちーとやり過ぎちゃったろっかねぇ?』

 

 自分の得意技(ポルターガイスト)で仕留めた五人(無名のまんま)を足元に置いて、涼子がいたずらっぽく舌を出した。これに友美は、両腕を組んだスタイルで応じてやった。

 

「やり過ぎっちゃよ☆」


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