『剣遊記]』 第五章 必殺! お仕置き人参上。 (8) 「見ろぉ! 女じゃあ!」
「ほんとじゃのお!」
裏庭の渡り廊下で、自分たちの前方を走る黒衣の怪しい影を見つけたとき、屍薬{しやく}と弩痢{どり}(このふたりも名前が初登場)は、その怪人物を直感で女性だと見破った。
すべては色ボケしている外道の成せる技であった。
ところがその黒衣の女性は、予想外に足が速かった。
「待つんじゃあ! そこん女ぁ!」
「くっそぉ! 胸クソが悪りー女じゃあ!」
大の男が一生懸命、走って追い駆けても、その女性との距離は一向に縮まらなかった。そんなこんなをしているうちに、女性は廊下の角をクイッと曲がった。屍薬と弩痢も、あとを追って進路を変えた。
「なんや? もうひとりおったんか?」
ふたりで声をそろえたとおり、廊下の角を曲がってすぐの所で、ふたりの女性がいた。その顔ぶれは、たった今まで追い駆けていた黒衣の女性と、もうひとりは新顔。だが新顔のほうは、どこかの酒場でよく見るような給仕係の制服を着た、あどけない顔の少女であった。
そのあまりにも場違いなふたりの風采で、屍薬は思わず、間の抜けたような問いただし方をした。
「お、おめえら……いってえ、何もん……じゃ?」
ここでいきなり、制服の少女が頭上高くピョンと跳躍をした。
「ぐがざっ!」
「ばずごっ!」
そのまま一気に、飛び蹴りでふたりの男をゲシッ バクッと、一瞬にして張り倒した。
この制服少女の大手柄に、黒衣の女性――可奈が、盛大な拍手をパチパチパチパチ👏としてくれた。
「やっぱり美香は、あんねんまく凄いんだにぃ♡ いっつもけわしい山ん中さ、カモシカん格好で飛び跳ねるだけんこくあるずらよぉ♡ それに独自の拳法まで入っとうもんだに、ほんとはかがいくほど無敵ってもんずらぁ♡」
ところが可奈の誉め言葉を耳に入れた美香は、なぜかうれしさと少々の不満が、まるで混合しているような顔になっていた。その原因は、次のセリフにあった。
「美香……早くカモシカに戻りたいんわえ……二本足で歩けねえもしっかす、もうごしたいんずらぁ……☁」
これは、日頃純朴な美香がこぼすには、なんだかとても似合わない愚痴であった。だけども、親友からの説得と言うか、半強制的な可奈の言葉には、実際逆らえなかった。
「なぁに、まだまだ、だいじょうずらよ♡ あたしが魔力さ取り戻して平気どうになるまで、美香にはもうちっとべえ、活躍してもらわんとはかがいかんだにぃ♡」
「うん……★」
美香は渋々の感じでうなずいた。それからこのあとも、出くわす男どもを片っ端から、可奈と美香の共同戦法でぶっ倒し続けていった。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |