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『剣遊記]』

第五章 必殺! お仕置き人参上。

     (2)

 律子の愛娘は、この場の乱れた空気とはまったく無関係。お酒の臭いが充満している喧騒の席の中。すやすやと静かな眠りについていた。

 

 これはこれで、けっこうな大物ぶりを発揮しているとでも言うべきか。しかしこの様子っぷりが、有混事の好奇心を大きく刺激したようだ。

 

「そん赤ん坊……いんや、こげんなったら緑ん坊っちゅうべきやろっか? 呪術の遺伝が無きにしもあらずとは言え、これはかなり珍しい存在ばい✐ ここはひとつ、研究材料として吾輩に預けてくれんね?」

 

「あんたって男はぁ……どこまでちかっぱ最低なんねぇ!」

 

 若いころには勝手に人を横恋慕して追い回し、それから今度はなんと、我が娘を毒牙にかけようとしている。

 

 カッとなった律子は手元にあったブランデー入りのグラスを右手でつかみ取り、有混事の顔面に向け、もろにバシャッとぶっかけてやった。

 

「貴様ぁっ! 司教殿になんばしよっとやぁ!」

 

 すぐに粗利蚊を始め、居並ぶ伯爵と司教の側近どもがいきり立った。だが彼らを制した者は、蟻連伯爵だった。

 

「まあ、そうおらばんで待つんじゃあ♠ 今のは司教の言い方に非があったようじゃけんのー☻ そげーよりもますます、このわし自身がこん女子を気に入ったようじゃわぁ♡ どれ、長官殿の貢ぎモンに出す前に、まずはこんわしが再教育をしてやるけー♡ どうやら母親のどーならん気性の荒さが、そん娘にも遺伝しとーかもしれんけのー♥」

 

 これには酒をかけられた有混事も、見事尻馬に乗った様子でいた。

 

「くくく♡ そうですばい、伯爵殿♡ これで吾輩の呪術が遺伝しとう確率が、ますます高こうなっとうようですからなぁ♡」

 

 びしょ濡れの顔を自分が着ている法衣の袖でぬぐいながら、有混事はなおさらの上機嫌顔でニヤついた。

 

 周囲をこのような最悪連中で固められ、祭子をしっかりと抱いた律子はとてもではないが、おだやかな心境ではいられなかった。

 

(ヒデ……早よ祭子とわたしば助けに来てやぁ! それからついでやけど、孝治くんたちもね……!)


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