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『剣遊記]』

第五章 必殺! お仕置き人参上。

     (1)

 古城にて、孝治たちの奮戦中と同時刻。宿敵である有混事は、今夜は蟻連伯爵の豪勢な居城に招待をされ、粗利蚊など側近たち全員を引き連れて、盛大な酒盛りパーティーに興じていた。

 

 本来、伯爵も司教もその職業柄、酒類を断ち切って聖職に励まなければならない身の上。だがあいにく、彼らにはそのような、殊勝とも言える道徳観念――あるいは倫理観などはなかった。

 

 さらに法規破りの上塗り。有混事は今夜の席に、律子母娘も無理矢理同席させていた。

 

「そのにーな女子{おなご}が、おまえが今度行政長官殿にご献上するつもりの極上女盗賊けー☻ なるほどのぉ、そん緑の髪が、なんとも言えんでーれー色気を感じさせるのぉ♡」

 

 すでに酒が頭に回りきっている蟻連伯爵である。そんな酔っぱらいが、充血しきっている両眼でもって、ほとんど拉致同然で酒盛りの場へと引き出されている律子を、ジロジロと舐めるようにして眺め回した。

 

「へえ、そうなんですよ♡ おらぁ、そげな無粋な顔ばっかせんで、伯爵殿にきちんとお酌ばせんかぁ!」

 

「ふんだ!」

 

 完全なる媚び売りまくりの有混事に、律子が酌の代わり、嫌悪の眼差しを突きつけた。そのついで、このような田分けた野郎どもの言動など、律子は最初っから関心の外。それよりも、もっと気になる心配事があるのだ。

 

「わたしのヒデはどげんしたと! おまけで孝治くんたちは!」

 

「ヒデけぇ……なるほどぉ、おまえの今の亭主んことけ☠」

 

 律子から徹底的に嫌われているにも関わらず、脳味噌がアルコール漬け状態となっている有混事は、これまた完全上機嫌の世界にあった。

 

「安心しや♡ そいつやったらこん吾輩が小遣い銭ばくれてやって、どっか遠くに消えてもろうたわ♣ 男なんちゅうもんは、しょせんはそげな下郎もんよ♠」

 

「ヒデはそげな男やなか!」

 

 有混事の悪口雑言を、律子は頭っから否定した。そりゃ夫の秀正は、浮いた噂のひとつやふたつや三つや四つや五つ――キリが無いので、ここら辺でやめておく。とにかくそれでも重労働を承知で、秀正がきつい遺跡発掘仕事をこなしている理由は、すべて愛妻律子と愛娘である祭子のためなのだ。

 

 それがもしも、わずかな金額で家族を捨てるような男であれば、そんなに苦労をしてまで骨身を削って働けるわけがない。だがそのような愛する者のための奮闘努力など、蟻連や有混事のような特権人種から見れば、まさに死んでも理解ができない話なのであろう。

 

「ふん☠ そげーなカスみたいな男がいくら働いて稼いだところで、女に優雅な贅沢や豪邸住まいを献上するなど、一生できんじゃろうて☠ だが、わしならそれができるけんのー♐」

 

「へへっ♡ おっしゃられるとおりでございますな♥ どっちしろ、金で動かぬ者など、この世におるわけがございませんからなぁ♪」

 

 蟻連が酒の肴を右手でつまみながら。また有混事も、盃{さかずき}の酒をガブ飲みしながらで、そろって律子に、いやらしい目線を送った。そのついでか有混事が、律子が抱いている祭子にも目を向けた。


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