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『剣遊記]』

第四章 炸裂! カモシカ拳!

     (15)

 可奈が魔術対決で美奈子に敗れ、お仕置きとしてリスに変えられた話は、もうずいぶんと昔の物語になっていた。

 

 また孝治と友美と涼子もその現場に立ち会い、すべてを目撃していた。

 

 だがさすがに現在、術は解除されているものと、言わば勝手に思いこんでいた。

 

 ところが美奈子の術――あるいは呪いと言っても過言ではなし――は、いまだに健在していたのだ。

 

『そげん言うたら今んなってかもしれんちゃけど、美奈子さんも可奈さんも、一度も術ば消したっち言うとらんかったちゃねぇ〜〜ってことは、あの魔術は継続されっちょったんやねぇ★ まあ、ここで魔力ば封印されちょるんは可奈さんと友美ちゃんやけ、この場におらん美奈子さんは、封印とは関係なかってことっちゃね♡』

 

「そうっちゃね★ おまけに可奈さん、そん術んおかげで魔術とは関係なしで、もう自分の意思で変身できるようになっとうとやけ✒ 世の中、変なもんばい☠」

 

 涼子と友美が、きょうまでの経緯を説明している前だった。可奈変身の赤毛のリスが、その強力そうな門歯で、まずは孝治を縛っている縄から噛み切ろうとしていた。

 

 美香が刃物を持ってこなかったので、言葉どおり、これで自分の責任を果たしているわけなのだろう。

 

「孝治……可奈さんもライカンスロープやったとか?」

 

 秀正の問いに、孝治はなにがなんだか、とにかくおかしな気持ちになった。

 

「いや……そげんわけでもなかっちゃけどぉ……☠」

 

「まあ、なんにしても、美香ちゃんは喜んじょるみたいっちゃけどな♥ 見てみいや♡ 小踊りなんかしようばい♡」

 

 続いて荒生田先輩が言うとおり、美香は親友がリスに変身した姿を見て、かなりはしゃいだ感じで本当に踊りまくっていた。

 

「可奈……わたしといっしょ♡ 今度おらほらで動物になって、山さ登って遊ぼうずらぁ♡」

 

「ききっ!」

 

 可奈がリスのままで、美香に返事を戻した。しかし孝治には、その意味がなんとなくだけど、わかるような気がしていた。

 

(人間語やなかけ確かやないかもしれんちゃけど、きっと可奈さん、こげん言いよんやろうねぇ☁ 違うずら、あたしは魔術ばかけられて、こげんなっとうだけずら、ってね☃ でも、動物同士っちゅうのも、けっこうええかもしれんちゃねぇ♥)

 

「けっきょく可奈さんも、今の自分をけっこう楽しんじょるんかもしれんちゃねぇ♥ ねえ、孝治☆」

 

 左からそっと話しかけてくる友美も今の可奈の心境を、やはり孝治と同じ感じ方をしているようだ。

 

 実際の可奈の本心は確かめようもないのだが、とにかく彼女のおかげでようやく自由の身となった孝治は、友美に次のように付け加えてやった。

 

「ここにも『魔術被害者の会』の会員がおったことになるっちゃねぇ♥」


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