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『剣遊記T』

第三章 押しかけパートナーと天然系依頼人。

     (3)

「うわっち?」

 

「えっ?」

 

 意表を突かれた孝治と友美であった。驚きの声は違うけど、発声のタイミングは見事に重複した。

 

 息づかいを感じない状況は、相変わらずだった。しかし今度ははっきりと、声らしい声が聞こえたのだ。

 

 これにて孝治は、完全に確信した。

 

「やっぱし……おれと友美以外にもうひとり、誰かおるっちゃね♠」

 

「そげんみたい♣」

 

 友美も孝治に同調してくれた。こうなると、もう慎重に構える気力も減退。孝治は遠慮なしで、大きな声を張り上げた。

 

 なんだか小馬鹿にされているような気になってきたので。

 

「もう! こそこそ隠れとらんで、とっとと出てこんね! こっちは逃げも隠れもできんとやけね!」

 

 隣り近所の同僚たちは、全員仕事で出払い中――だからこそ可能な、気配り不要で大胆極まる振る舞いだった。これに間髪を入れずして、返事がすぐに戻ってきた。

 

『そげん大きか声出さんかて、誰も隠れとらんのやけね☠』

 

 なにもない空間から。かなりぶっきらぼうな感じでもって。

 

「うわっち!」

 

 孝治、思わずの仰天! わずかに残っていた慎重さも、これで完全に吹き飛んだ。

 

 やがて部屋の一角――机を置いてある右手の側の壁にぼんやりと、青白い光が新たに浮かび上がった。それは友美が創った発光玉と、よく似ている光といえた。

 

「こ、これって……☠」

 

 自分の声が裏返っているのを自覚している孝治も、噂話だけなら耳に入れたことがあった。それは夜中の墓地や森の奥で、よく目撃されると聞く。だけど孝治にとって(恐らく友美も)、実物を見る体験は、きょうが初めてだった。

 

 それを人は、ウィル・オー・ウィスプ{鬼火{おにび}}と呼んでいた。

 

「こ、孝治ぃ……☃」

 

 友美が孝治の背中で震えていた。

 

「ヤ、ヤバかっちゃよ……これぇ……☂」

 

 動揺している心境ならば、それは孝治も同じでいた。ウィル・オー・ウィスプの出現――それが意味する事態とは、『あれ』以外には考えられないからだ。

 

 孝治は叫んだ。

 

「も、もしかして、幽霊けぇ!」

 

『正解っ☀ ぱんぱかぱーーん! 大当ったりぃ!』

 

「うわっち! はりゃりゃりゃ!」

 

「きゃん!」

 

 孝治はもちろん、友美もいっしょにズリこけてくれた。同時にウィル・オー・ウィスプがパッと、少女の姿へと一瞬にして変わった。

 

『じゃじゃーーん♪♫♬ お待っとうさぁーーん♡♪♫♬』

 

 よけいな付け加えではあるが、真っ裸の格好だった。


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