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『剣遊記T』

第三章 押しかけパートナーと天然系依頼人。

     (19)

「か、鹿児島ですけぇ……そ、それは、まあよかっちゃですけどぉ……あそこは島津侯爵家が統括しちょる、日本一、いんや世界一、検問が厄介で厳しかとこやけんねぇ☁ 冒険の行く先としちゃあ、いっちゃん行きたくないとこですっちゃよ☠」

 

 孝治は依頼人に向け、もろ消極的な態度を、わざと思いっきり大袈裟的に見せつけてやった。だがなぜか、美奈子は俄然に強気だった。

 

「それくらいの話どしたら、妾{わらわ}も存じておりますえ☆ 九州の南部を統括してはる島津侯爵家が、織田皇帝と反目の関係になってはるのもやね✍」

 

「なんねぇ、そこまで知っとうとですか♠ おれはまた、九州の事情ば、よう知ってなかったんかと思いましたちゃよ⚠」

 

 思わず感心した孝治に、今度は千秋が、横槍で突っ込んできた。

 

「当ったり前やないかい! 師匠と千秋は日本中、あちこち旅して周っとんのや☆ そやさかい、九州の情勢くらい、頭に山ほど入っとるわい♐」

 

「うわっち……あ、そう☠」

 

 とても癪{しゃく}に障るので、孝治は千秋の小言を、軽く受け流す程度で応じてやった。

 

「千秋が言います九州の情勢とは、だいたいこないな感じでおますんでっしゃろ✍」

 

 さらに美奈子が、勝手に講釈を始めてくれた。

 

「九州の北側を統括してはる羽柴家は、織田皇帝から派遣されて九州に来はったんでおますが、南の島津家は、もっと古い時代から地元の鹿児島におりはった、由緒正しき正真正銘の家柄なんどすえ✍」

 

「はぁ……そうですねぇ……☁」

 

 孝治は長い話になりそうな雲行きを覚悟した。

 

「そないなもんやさかい、織田家の全国制覇のとき、お終いまで抵抗しはったんが島津家で、けっきょく軍門に下ってしまいはったんでおますが、反中央意識が伝統になって、今でも九州の南部に広まってはる……というお話でんなぁ✍」

 

「そ、そうですねぇ☆」

 

 しかし美奈子の話が思ったほど長くなくて、孝治はほっと、安堵のため息を吐いた。

 

「まあ、それが理由なんか知らんとやけど、爵位も羽柴の公爵さんよか一個格下の侯爵やけんね☻ そこに九州北部の人が入ったら、いったいどげな目に遭わされるか、わかったもんやなかっちゃけねぇ♠」

 

 友美も美奈子と同調するかのように、怖い話を並べてくれた。

 

「……そこまで知っちょって、やっぱ行くとですか?」

 

 背中に冷たい氷河を感じながら、孝治は美奈子に念を押してみた。

 

 結果は言わずもがな――だった。

 

「はい、行きますえ✌ それが妾{わらわ}と千秋の、今回の旅でおますさかい☀ やけど、その理由を言うんは、のちほどにさせておくんなまし⚤⚤」

 

 美奈子の返答で孝治は、今度は深いため息を吐いた。

 

「なら、もう仕方なかっちゃね⚠ 理由なんか尋ねんけど、それがこっちの商売であり任務なんやけ☂」

 

 これにてややの覚悟ができた孝治のうしろでは、涼子が友美に、ひそひそと訊いていた。

 

『孝治って、鹿児島になんかトラウマ{的外}でもあると? やけに鹿児島行きば嫌がっとうみたいなんやけど♐♋』

 

 友美がこれに、やはり小さな声で答えていた。孝治の耳には丸聞こえなのだが。

 

「別になんでんなかと☻ ただ、検問が日本でいっちゃん厳しかとこっちさっきも言うたけど、孝治の場合、今回はそれに性転換が入っとうけ、そーとーヤバかこつになるかもしれん、っちゅうことやね♥」

 

(さすが友美やねぇ☻☛ やっぱおれの本心ば見抜いとうばい☠)

 

 今さらながらに孝治は、友美の洞察力の鋭さに、白旗を揚げる気持ちとなった。そこで事態が急に、横道にそれるほうへと発展した。

 

「あんた、誰と話しよんや?」

 

 友美のひそひそ声に、千秋が敏感に反応したのだ。


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